玲奈(れいな)は昔からノートが好きだった。
文房具店で手に取ると、表紙のデザインや手触り、紙質まで細かく確認し、選び抜いたノートを大切に家に持ち帰った。
玲奈にとってノートはただの文具ではなかった。
夢や思考、アイデア、日々の出来事を閉じ込める「自分だけの小さな世界」だった。
中学生の頃、玲奈は最初の「特別なノート」を作り始めた。
表紙にシールや絵を貼り、中身をカラフルなペンで彩った。
クラスメイトたちは彼女のノートを見て「かわいいね」「すごい!」と褒めてくれたが、玲奈はそれ以上に、自分が生み出した世界に没頭することが楽しかった。
ページを開くたび、そこには自分の心が詰まっている気がした。
しかし高校生になり、玲奈は周りと少し距離を感じ始めた。
友達がスマホでメモを取り、SNSでアイデアを共有する中、玲奈だけが未だにノートにこだわっていたからだ。
クラスメイトに「なんでまだ手書きで書いてるの?」と聞かれるたび、玲奈は困ったように笑いながら答えた。
「なんとなく、ノートが好きだから」。
しかし本当は、玲奈自身も時代に取り残されている気がしていた。
そんなある日、玲奈は近所の古本屋で一冊のノートを見つけた。
シンプルな黒い表紙で、見た目には特に目立つところはない。
しかし手に取った瞬間、玲奈はその重みと手触りに引き込まれた。
どうしても気になり、そのノートを買って帰った。
家に帰りノートを開くと、最初のページにこう書かれていた。
「このノートには、書かれた言葉が現実になる力がある。ただし、その願いは書いた人の本当の気持ちを映し出すものに限られる。」
最初は冗談だと思った玲奈だったが、何となく気になり、試しにこう書いてみた。
「明日の空が晴れますように。」
翌日、予報では雨だったのに、朝起きると雲一つない青空が広がっていた。
玲奈は驚いたが、偶然だろうと思い込むことにした。
しかし、その後もノートに書くことが次々と現実になると気づき、彼女の心はざわめき始めた。
玲奈はこのノートでどんな願いも叶えられることに気づくが、その一方で葛藤を感じた。
「自分が望むことが全て叶ってしまうのは、本当にいいことなのだろうか?」と。
ある日、玲奈はふとこう書き込んだ。
「私の本当の居場所が見つかりますように。」
その瞬間、彼女の心の中に何かが響いた。
ノートの力を使って得られるものよりも、自分自身の手で書き続けてきたことの方が、ずっと大切だったと気づいたのだ。
玲奈はノートの最後のページにこう書き込んだ。
「ありがとう。このノートは私に必要なことを教えてくれました。」
その瞬間、ノートは柔らかい光を放ち、何も書かれていない新品の状態に戻った。
玲奈は微笑みながら、それを大切にしまった。
彼女はこれからも自分の思いをノートに書き続けていくつもりだった。
その一文字一文字が、彼女自身を形作る「本当の魔法」だと信じて。