海辺の小さな町に住む少年、カズキは、なまこが大好きだった。
子どもの頃、祖父と一緒に潮干狩りをしたとき、初めてなまこを手にした感触を覚えている。
つるつるして柔らかく、不思議な形をした生き物に、カズキは一瞬で心を奪われた。
それ以来、彼は毎日のように海辺を歩き、なまこを探してはその生態を観察していた。
ある日、カズキはいつものように砂浜を歩いていると、波打ち際に一際大きななまこを見つけた。
色は深い青緑で、まるで夜空を切り取ったような神秘的な輝きを放っている。
「こんななまこ、見たことがない…!」と驚いたカズキは、そっと手に取り観察しようとした。
その瞬間、周囲が突然静かになり、青緑のなまこが柔らかな声で語りかけてきた。
「私を助けてくれてありがとう。私はただのなまこではない。海の精霊が宿っているんだ。君がこうして私を見つけたのも、きっと意味がある。」
カズキは驚きのあまり言葉を失ったが、やがて小さくうなずいた。
すると、なまこは微笑むように体を少し震わせてこう続けた。
「君に一つだけ願いを叶える力を授けよう。だが、その願いは自分のためだけでなく、他の人や自然をも幸せにするものでなければならない。」
カズキは一晩考えた末に、こうお願いした。
「この町の海がもっときれいになり、たくさんの生き物たちが安心して暮らせる場所になりますように。」
なまこは満足げに再び輝きを放つと、「よい願いだ」と言って、波に乗って消えていった。
その後、町の海辺には奇跡が起こった。
漂着ゴミが消え、海藻やサンゴが再生し、多くの海の生き物が戻ってきた。
漁師たちは豊漁に喜び、観光客たちは美しい海辺に魅了された。
カズキはその光景を見て、なまこの精霊との出会いに感謝した。
そして、それ以来、彼はますます海を大切にし、他の人々にも自然を守る大切さを伝えるようになった。