中学2年生の春、佐藤翔太はハンドボールに出会った。
部活動見学の日、体育館の片隅で繰り広げられるスピーディーで迫力満点のプレーに、翔太は心を奪われた。
小学生時代はサッカー少年だったが、どこか物足りなさを感じていた。
ボールを受け、ジャンプしてシュートを放つ姿に、彼は自分の新たな居場所を見つけた気がした。
「俺もやってみたい!」翔太の声は自分でも驚くほど大きかった。
ハンドボール部に入った翔太だったが、最初は苦労の連続だった。
ボールの扱い方も、シュートフォームも、すべてがぎこちない。
特にジャンプシュートがうまくできず、何度も着地で足をくじいた。
「翔太、焦るなよ。まずは基本を繰り返すことが大事だ。」
キャプテンの大輔が優しく声をかけた。
その言葉に励まされ、翔太は地道に練習を重ねた。
しかし、チームの他のメンバーと比べて、自分の未熟さが目に見える形で現れるたび、心が折れそうになる。
そんなとき、翔太は母が書いてくれたメモを読み返していた。
「努力は嘘をつかない。でも、その努力が正しい方向を向いているかどうかを、常に考えること。」
この言葉を胸に、翔太は毎晩YouTubeでプロの試合や練習動画を見て、自分のフォームを見直した。
休日にはランニングで体力を鍛え、壁打ちでボールの感覚を磨いた。
半年後、翔太は公式戦に初出場することになった。
緊張で手が震えたが、試合開始のホイッスルが鳴ると、一気に集中力が高まった。
相手ディフェンスをかいくぐり、翔太が放ったジャンプシュートは見事にゴールネットを揺らした。
観客席から湧き上がる歓声が、彼の心に火をつけた。
その試合で翔太は2得点を挙げたものの、チームは惜しくも敗北。
試合後、悔しさで涙を流す翔太に、大輔は笑顔でこう言った。
「お前のシュート、最高だったぞ。俺たちのチームには、お前みたいな熱いヤツが必要だ。」
その言葉が翔太の中で何かを変えた。
負けた悔しさと同時に、次への挑戦への強い意志が芽生えた。
中学卒業後、翔太は地元でも名門とされる高校のハンドボール部に入部した。
そこで待ち受けていたのは、全国から集まった猛者たちとの熾烈な競争だった。
先輩たちのプレーは桁違いで、翔太は再び自分の限界を感じた。
しかし、中学時代の努力の日々を思い出し、彼は歯を食いしばった。
「俺は絶対にレギュラーを勝ち取る!」
毎日の練習後、誰よりも遅くまで体育館に残り、シュートの精度を磨き続けた。
その努力が実を結び、2年生の春、翔太はついに公式戦のスタメンに選ばれる。
そして、その試合で見事な活躍を見せ、チームを勝利に導いた。
試合後、翔太は母に送ったメッセージを思い出した。
「ありがとう。俺、少しだけ強くなった気がする。」
翔太の夢はまだ始まったばかり。
全国大会出場、そして日本代表のエースになる日を目指して、彼は今日もボールを追いかける。