キムチの香りに誘われて

食べ物

玲奈(れいな)は小さな町に住む普通のOLだった。
毎日、定時で仕事を終え、駅近くのスーパーで食材を買い、家に帰る。
それが彼女のルーティンだった。
しかし、そんな平凡な生活の中で、彼女にはひとつだけ特別な情熱があった。
それは、韓国料理だ。

学生時代、友人に誘われて入った韓国料理店で初めて口にしたサムギョプサル。
あのジューシーな肉とシャキシャキの野菜、そして口の中で広がるキムチのスパイシーな味わい。
それ以来、玲奈は韓国料理に心を奪われた。

「また食べたいな…」

そう思って通い始めた韓国料理店で、玲奈は本場の味にどんどん惹かれていった。
いつしか自分でも作ってみたいと思うようになり、週末にはYouTubeやレシピサイトを参考に、チヂミやトッポッキを作る日々が始まった。

そんなある日、玲奈の職場に新しい社員が入ってきた。
彼の名前はソンジュ。韓国からの留学生として日本で学び、その後この会社に就職したという。
彼の日本語は流暢で、社内でもすぐに人気者になった。
玲奈も彼に興味を持ったが、何よりも心をつかんだのは、ソンジュが同僚にふるまった「キムチチゲ」だった。

昼休み、社員たちのために作られたその鍋の香りに玲奈は完全にノックアウトされた。
「どうしてこんなに深い味が出せるんだろう?」と驚きながら、一口食べた瞬間、彼女の中の韓国料理愛がさらに燃え上がった。

「ソンジュさん、これ、どうやって作るんですか?」

食後、玲奈は思わず彼に質問をした。
ソンジュは少し驚いたような表情を見せた後、にっこり笑って答えた。

「簡単ですよ。でも、出汁をしっかりとるのがポイントです。あと、キムチはやっぱり手作りが一番美味しいですね。」

「手作りですか!?キムチを自分で作れるなんて思ってもみませんでした…」

それからというもの、玲奈はソンジュに教わりながらキムチ作りを始めることになった。
週末、ソンジュが手土産に持ってきた唐辛子粉やアミの塩辛を使って、2人はキッチンで並んで作業した。

「辛さはどうしますか?」
「うーん、ちょっと控えめで…いや、やっぱり本格的な辛さがいいかも!」

玲奈はソンジュの説明を聞きながら材料を混ぜる。
その光景はまるで料理教室のようだった。
初めて完成したキムチは、まるでお店で売られているもののような味わいで、玲奈は感動のあまり涙をこぼしてしまった。

「こんなに美味しいキムチ、初めてです!」
「僕も玲奈さんがここまで上手に作れるとは思いませんでしたよ。」

ソンジュの笑顔に、玲奈は胸が高鳴った。
それは単なる料理の楽しさを超えた、新しい感情の芽生えだった。

それからというもの、2人は韓国料理を通じて少しずつ距離を縮めていった。
一緒に韓国料理店を巡ったり、ソウル市場で材料を探したり。
やがて、玲奈の部屋には韓国料理の本や調味料がずらりと並ぶようになった。

ある日、ソンジュが唐突に言った。
「玲奈さん、韓国に行ってみませんか?」

「韓国?」

「本場の味を、僕と一緒に楽しみませんか?絶対に玲奈さんが好きな料理がたくさんありますよ。」

玲奈の胸は高鳴った。
いつか行きたいと思っていた韓国。
それが、ソンジュと一緒に実現するなんて。

それから1ヶ月後、2人はソウルの街を歩いていた。
屋台のトッポッキ、サムゲタン専門店の濃厚なスープ、仁寺洞で食べたホットク。
玲奈にとって、どれも忘れられない味だった。
そして何より、隣にソンジュがいることが、料理以上に特別だった。

「韓国料理が好きで、本当に良かった。」

玲奈はソンジュと笑い合いながら、キムチの香り漂うソウルの夜を満喫した。