それは、森の奥深くで見つかった一つの赤い実から始まった。
その森は「永遠の森」と呼ばれ、誰もがその名前を聞くだけで敬遠する場所だった。
無限に続くような樹々の間には、古くからの伝説や恐ろしい話がいくつも囁かれていた。
しかし、村に住む少女リアは、その森への好奇心を抑えきれなかった。
ある晴れた日の朝、リアは森の入り口に立っていた。
軽い冒険心が、彼女をここまで連れてきた。
「どんな秘密が隠されているんだろう?」そんな想いを胸に、一歩ずつ足を踏み入れた。
木漏れ日が作る模様の中を進むと、空気はだんだんとひんやりとしてきた。
鳥のさえずりも次第に遠のき、代わりに静寂が支配し始めた。
リアが森の奥で目にしたものは、信じられない光景だった。
古びた石碑のそばに一本の小さな木が立っており、その枝には鮮やかな赤い実が一つだけ実っていた。
その赤色は、この森のどんな花や果実とも異なり、どこか不思議な輝きを放っているように見えた。
「こんなところに果実が?」
リアは不思議に思いながらも、その赤い実に手を伸ばした。
実を触れた瞬間、奇妙な感覚が彼女を包み込んだ。
まるで自分の心の中が透けて見えるような感覚だった。
それと同時に、石碑の文字がまばゆい光で浮かび上がった。
普段なら読めない古い言語が、リアにはなぜかはっきりと理解できた。
「この実を口にする者よ、汝の望むものを与えよう。ただし、それは同時に試練の始まりでもある。」
リアはその言葉に一瞬迷ったものの、自分の胸に秘めていた夢を思い出した。
村では彼女の家族は貧しく、リア自身も「ただの村娘」として誰からも特別な目で見られることはなかった。
しかし、彼女には強い願いがあった。
――自分の力で何かを成し遂げ、村を救いたいという願いだ。
「試練だとしても、進まなければ何も変わらない。」
リアはそう呟くと、赤い実を一口かじった。
その瞬間、周囲の風景が変わった。
森は消え去り、彼女は果てしなく広がる荒野の中に立っていた。
目の前には巨大な門がそびえ立っている。
門には再び石碑のような文字が刻まれていた。
「望む力を手にするには、心の弱さを克服せよ。」
リアは戸惑いながらも門を押し開け、中へ進んだ。
そこで彼女を待ち受けていたのは、自分自身の影のような存在だった。
それは彼女の不安や恐れを映し出し、冷たい言葉を浴びせかけてきた。
「君には何もできない。周りの人間がどう思っているか、気づいているのだろう?」
「挑戦しても失敗するだけだ。」
リアの胸に小さな動揺が走った。
しかし、彼女はすぐに深呼吸をした。
目の前の存在が、ただ自分の心の声を具現化したものだと気づいたからだ。
彼女は静かに言い返した。
「たとえ失敗しても、挑戦しなければ未来は変わらない。私は怖いけど、それでも進む。」
その言葉とともに、影の存在は徐々に薄れていった。
そして再び、風景が変わった。
気がつけばリアは元の森に戻っていた。
手には、赤い実の種が残されていた。
村に戻ったリアはその種を植えた。
不思議なことに、種は瞬く間に芽を出し、成長した。
その木は周囲に豊かな実りをもたらし、村の暮らしは次第に良くなっていった。
人々はリアを「村を救った少女」として称えたが、彼女はただ微笑むだけだった。
彼女にとって本当に得たものは、自分の弱さを認め、乗り越える力だった。
赤い実の謎は解けないままだったが、リアにとってはそれで十分だった。
あの実が導いてくれた試練と成長が、彼女に新しい未来を開いてくれたからだ。
森のどこかでは、また新たな赤い実が誰かを待っているのかもしれない――そう思いながら、リアは今日も村で新しい種を植える。