拾われた秘密

ホラー

ある日、山田翔太(やまだしょうた)は、いつもの通勤路を歩いているときに、道端で一枚のSDカードを見つけた。
何気なくそれを拾い上げ、ポケットに入れたものの、特に重要なものだとは思わず、そのまま忘れてしまった。
仕事に追われ、忙しい日々を送っていた彼にとって、そのSDカードの存在はほんの些細な出来事に過ぎなかったのだ。

しかし、ある雨の日、家に帰ると濡れた服を脱ぎながら、ふとポケットに入っていたSDカードのことを思い出した。
なぜか気になり、パソコンに挿して中身を確認してみることにした。
SDカードには、写真や動画、テキストファイルが保存されていた。
最初は普通の家族写真や旅行の記録のように見えたが、徐々に奇妙なことに気づいた。

いくつかのファイルには、明らかに非日常的な内容が映っていた。
夜の森で撮影された不気味な映像や、誰かが密かに監視しているような人物の写真、さらには暗号のようなテキストが多数含まれていたのだ。
翔太はすぐに背筋が冷たくなるのを感じ、これが単なる拾い物ではないことに気づいた。

最初はそのまま無視しようとしたが、好奇心が勝り、翔太は映像やテキストを解析し始めた。
彼は趣味でプログラミングや暗号解読を嗜んでおり、そのスキルを使って暗号の解読に挑んだ。
何日もかけて調査を続けた結果、彼は驚愕の事実にたどり着いた。
暗号はある巨大な組織の秘密取引に関する情報で、違法な薬物取引や政治的な陰謀に関わっていることを示していた。

翔太は恐怖を感じつつも、この情報を使えば自分の人生が一変するかもしれないという思いが湧き上がった。
彼はこの情報をどう扱うべきか悩んだ。
警察に届けるべきか、それともマスコミに流すべきか。
しかし、そんな行動は自分自身を危険にさらすことになるかもしれない。
組織の力は計り知れず、もし自分が関わったことがバレれば命の危険さえあるだろう。

一方で、翔太は自分の平凡な生活に不満を感じていた。
大学を卒業し、普通のサラリーマンとして働いていたが、特にやりがいを感じることもなく、日々が単調に過ぎていくだけだった。
このSDカードがもたらした秘密は、そんな彼の退屈な人生を一変させる可能性があった。
もしこの情報をうまく利用できれば、大金を得ることも、影響力を手にすることもできるはずだ。

ある晩、翔太は自分の将来を見つめ直し、リスクを取る決意をした。
彼は情報を使って、違法な組織の一部と接触する方法を探り始めた。
もちろん、自分自身がただの一般市民であり、警察や政府の手先ではないことを証明しなければならなかった。
数週間にわたる調査と準備の末、翔太はついにその組織と連絡を取ることに成功した。

初めての接触は恐ろしくも興奮に満ちたものだった。
翔太は密かに情報を売り渡し、巨額の報酬を手に入れる計画を立てていた。
彼は用心深く動き、直接的な取引を避け、オンラインの暗号通貨で報酬を要求した。
相手は彼の要求を受け入れ、翔太はついに人生で初めて大金を手にすることとなった。

その後、翔太の生活は一変した。
突然得た莫大な資産で彼は仕事を辞め、世界中を旅するようになった。
贅沢な生活を送り、誰もがうらやむような自由を手に入れたのだ。
かつての平凡な日常とは全く違う、刺激的で危険に満ちた新しい人生が始まった。

しかし、翔太は常に不安を抱えていた。
自分が手に入れたものが、他人の命を脅かし、裏で何かが動いていることを知っているからだ。
毎晩、彼は組織が自分を追っているのではないか、誰かに監視されているのではないかという恐怖に苛まれるようになった。
贅沢な生活の代償として、心の安らぎを失ってしまったのだ。

ある日、翔太のもとに一通の手紙が届いた。
それは差出人不明のもので、短く「お前のことは分かっている」とだけ書かれていた。
その瞬間、彼は自分が追い詰められていることを悟った。

SDカードを拾ったあの日から、翔太の人生は確かに変わった。
しかし、それは必ずしも彼が望んでいた形での「変化」ではなかった。