それは、人間が到達できないほど深い場所、地球上で最も暗く冷たい深海の底に眠る伝説の物語。
かつて、この世界の海の奥底には、古代の文明が存在していたという。
その文明は「リューリム」と呼ばれ、地上の人々からは見えない、はるか深海の闇の中で発展を遂げた。
リューリムの住民は、現代人とは全く異なる存在だった。
彼らは海中で呼吸ができ、魚や海獣たちと共存しながら、海底に広がる巨大な都市を築いた。
リューリムの都市は、深海の圧力と寒冷な環境に適応した、強固な珊瑚や特殊な鉱物を使って作られていた。
その中でも最も神聖視されていたのは、海底火山の近くにある「ルカナタの泉」という場所だった。
ルカナタの泉は、海の女神である「ルカナ」の神殿が建てられた場所であり、古くからリューリムの人々はそこに祈りを捧げ、海の平和と繁栄を願っていた。
ルカナの神殿には、伝説の宝「エウィスの石」が保管されていた。
この石は、海の深淵から採掘された特別な鉱石で、深海の闇を照らし、海流や嵐さえも操る力があるとされていた。
ルカナの加護のもと、この石は何世代にもわたりリューリムの平和を守ってきた。
しかし、その力を狙う者も少なくなかった。
数千年前、地上の強大な帝国「アルヴェール」が、リューリムの存在を知った。
彼らはエウィスの石を手に入れることで、海と地上の両方を支配しようと企んだ。
アルヴェールの皇帝は、強力な呪術師たちと共に、深海に住む巨大な怪物「カリゴス」を召喚し、リューリムを攻撃した。
カリゴスは、何千年もの間、海の深淵に封印されていたが、召喚に応じて目覚め、リューリムの都市に壊滅的な打撃を与えた。
リューリムの人々は、懸命に抵抗したが、カリゴスの破壊力は圧倒的だった。
多くの都市が海底に沈み、エウィスの石を守るための神殿も崩れかけた。
ルカナの巫女であった若い女性「シリス」は、ルカナの声を聞き、エウィスの石を使ってカリゴスを再び封印しようと決意した。
シリスは、エウィスの石を手にして神殿の最も深い部分に向かい、そこにある古代の封印を再び発動させた。
石の輝きが深海を照らし、カリゴスは再びその闇の中に引き込まれた。
しかし、シリスはその力を使い果たし、深海の闇に消えてしまった。
その後、リューリムの文明は壊滅し、海底にその遺跡だけが残された。
エウィスの石もシリスと共に失われたが、ルカナの加護によって再び災厄が起こることはなかった。
しかし、深海の闇には今でもリューリムの遺跡が眠っており、その中にはエウィスの石が隠されていると信じられている。
現在、深海探査が進む中で、いくつかの探検家や科学者たちがリューリムの遺跡を発見したという噂が広がっている。
しかし、その場所を明確に示すものはまだなく、また、リューリムの遺跡にたどり着こうとした者たちの多くが神秘的な失踪を遂げている。
その中でも最も不気味な報告は、海底で聞こえる謎の音「シリスの囁き」だと言われている。
それはまるで、海の底から誰かが助けを求めているような、あるいは深海に住む者たちが何かを守ろうとしているかのような声だという。
シリスが命をかけて封印したカリゴスが、今もなお目覚めようとしているのだろうか。
あるいは、エウィスの石が再び誰かの手に渡ることを阻止しようとするシリスの魂の叫びなのか。
この物語は、深海の神秘と恐怖を象徴するものであり、海の底にはまだ人類が知らない秘密が数多く存在することを示している。
深海の探検が進むにつれ、新たな発見とともに、この神話が再び語られることになるかもしれない。
深海の闇は、ただの自然現象ではなく、何か古代の力が眠っている場所である。
