夕焼けがゆっくりと街の輪郭をやわらかく溶かしていく帰り道、わたしときみは並んで歩いていた。
今日の空は、少しだけ眠たそうな色をしている。
「なんか、あくび出そう」
きみがそう言った瞬間、ほんとうに小さなあくびがこぼれた。
つられるみたいに、わたしも「ふぁ……」と口をひらく。
風がその間をすり抜けて、まるであくびを運んでいるみたいだった。
「分けあったね、あくび」
きみが笑う。
あくびのあとに残る、ふしぎなやわらかさが胸に広がる。
それから少し歩くと、またきみがあくびをする。
今度はさっきより少し大きくて、夕焼けの色まで飲み込んでしまいそうだった。
「それ、さっきより多いよ」
「いいでしょ。今日はたくさん集まってるのかも」
「なにが?」
「帰り道のあくび」
きみはそう言って、空を見上げた。
たしかに、今日の空はいつもよりゆっくり流れている。
雲も、電線も、歩く人たちも、みんな少しだけ速度を落としているみたいだった。
「ねえ、あくびってさ、どこから来るんだろう」
わたしが聞くと、きみは少し考えてから答えた。
「たぶんね、今日のつかれとか、安心した気持ちとかが、混ざってできるんだよ」
「じゃあ、分けあったらどうなるの?」
「半分こになるんじゃなくて、たぶん、ちょっと軽くなる」
その言葉のあと、またふたり同時にあくびをした。
今度は、笑ってしまうくらいぴったりのタイミングで。
笑いながら歩いていると、いつの間にか見慣れた分かれ道に着いていた。
ここから先は、いつもそれぞれの帰り道になる。
少しだけ、足が止まる。
「今日のあくび、持って帰っていい?」
きみが言う。
「どうやって?」
「ポケットに入れるみたいに」
きみは胸のあたりを軽く押さえてみせた。
「じゃあ、わたしのも少し入ってるかも」
「いいね、それ」
また、ふたりで小さく笑う。
夕焼けはもうほとんど消えかけていて、代わりに夜の気配が静かに近づいていた。
「じゃあね」
「またね」
それだけのやりとりなのに、なぜか今日は少しだけあたたかい。
家に帰ってから、ふと気づく。
さっきのあくびの余韻が、まだ胸の奥に残っていることに。
ひとりのはずなのに、どこかで誰かとつながっているような、そんなやさしい重さ。
窓を開けると、夜の風が入ってきた。
その風に乗って、もう一度、小さなあくびがこぼれる。
「ふぁ……」
その瞬間、どこか遠くで、きみも同じようにあくびをしている気がした。
分けあったはずのあくびは、消えるわけでも、減るわけでもなくて、ただやわらかく広がっていく。
明日もまた、帰り道で会えたらいい。
そして、またひとつ、あくびを分けあおう。
きっとそのたびに、少しだけ世界はやさしくなるから。


