きょうの運は、道ばたに落ちている。
そう気づいたのは、朝の通学路で、わたしが小さな金色のボタンを拾ったときだった。
ボタンは、コートについているような普通のものなのに、なぜか陽の光を集めるみたいにきらきらしていた。
ポケットに入れると、かすかにあたたかい。
「落とし物かな」
そうつぶやいた瞬間、足元にもうひとつ、何かが転がっているのが見えた。
今度は、四つ葉のクローバー。
しかも、押し花みたいにきれいなまま。
その隣には、小さな紙切れが落ちていた。
――きょうの運は、拾いもの。
へたくそな字で、そう書いてあった。
「なにそれ」
思わず笑ってしまったけれど、なんだか気になって、クローバーもポケットに入れた。
そのあとから、妙なことが続いた。
角を曲がったところで、いつも売り切れているパン屋のメロンパンが、ちょうど最後のひとつだけ残っていたり。
信号に一度も引っかからずに学校まで着いたり。
忘れたと思っていた宿題が、ちゃんと鞄の中から見つかったり。
どれも小さなことだけど、ぜんぶ「ちょうどいい」。
まるで、誰かがそっと道に置いていった運を、わたしが拾っているみたいだった。
放課後、同じ道を帰りながら、わたしは少しゆっくり歩いた。
もしかして、まだ何か落ちているかもしれない。
そう思って目をこらすと、今度は小さなガラス玉が見つかった。
ビー玉みたいで、でも中に薄い雲が閉じ込められている。
拾い上げると、遠くで転びそうになっていた子が、すんでのところで踏みとどまった。
風がやわらかく吹いて、桜のつぼみがひとつ、ふくらむ。
「……これも、運?」
ビー玉をポケットに入れると、なんだか胸の奥が軽くなった。
そのとき、ふと気づいた。
道の向こうから、ひとりの男の子が歩いてくる。
うつむいて、ちょっと元気がなさそうだ。
わたしは立ち止まった。
ポケットの中には、金色のボタンと、四つ葉のクローバーと、ガラス玉。
少し迷ってから、わたしはクローバーを取り出した。
男の子が近くまで来たところで、「あの」と声をかける。
「これ、落ちてたよ」
ほんとうは、さっき拾ったばかりなのに。
男の子は驚いた顔をして、それからそっと受け取った。
「……ありがとう」
小さく笑ったその顔は、さっきより少しだけ明るい。
その瞬間、わたしのポケットの中で、何かがふわっと増えた気がした。
あわてて手を入れてみると、見覚えのない小さな紙切れが入っている。
――運は、まわる。
さっきとは違う字で、そう書いてあった。
思わず、空を見上げる。
雲がゆっくり流れて、光が道に落ちている。
その光の中に、また何かがきらりと光った。
わたしは少し笑って、それを拾いに歩き出した。
きょうの運は、拾いもの。
そして、たぶん、渡しものでもある。


