ぽかぽか坂道の寄り道屋さん

面白い

町のはずれに、ゆるやかな坂道があります。
春も夏も秋も冬も、その坂道だけはなぜか少しあたたかくて、歩いていると胸の奥までぽかぽかしてくる不思議な場所でした。

坂の途中には、小さな木の看板が立っています。

――寄り道屋さん ご自由にどうぞ

そう書かれた矢印の先に、古いけれどかわいらしいお店がありました。
屋根は少し傾いていて、窓辺には色とりどりのクッション。
ドアを開けると、ふわっと甘いミルクティーの香りがします。

お店の主人は、白い髪のやさしいおばあさん。
名前は「よりみちさん」と呼ばれていました。
本当の名前は誰も知りません。

このお店では、お金はいりません。
かわりに必要なのは、ほんの少しだけ時間を寄り道することでした。

ある日の午後、学校帰りの男の子、ユウタが坂道を登っていました。

「はあ……」

ため息をつきながら歩いていると、例の看板が目に入ります。

――寄り道屋さん

「……ちょっとだけなら、いいかな」

ドアを開けると、ベルがちりんと鳴りました。

「いらっしゃい。今日はどんな寄り道にする?」

よりみちさんがにこにこしています。

「えっと……寄り道って?」

「ここではね、急がなくてもいい時間を売ってるの」

ユウタは首をかしげました。

すると、おばあさんは棚から小さな箱を取り出しました。
箱の中には、ふわふわのクッション、あたたかいココア、窓から見える坂道の景色。

「これはぼんやりする寄り道。人気よ」

ユウタは思わず笑いました。

「じゃあ、それください」

クッションに座り、ココアを飲みながら、窓の外を見ます。
坂道では犬がしっぽを振りながら歩き、風が落ち葉をころころ転がしていました。

五分くらい、ただそれを見ていただけでした。

すると、さっきまで胸にあったモヤモヤが、少しだけ軽くなった気がしました。

「どう?」

よりみちさんが聞きます。

「……なんか、いい感じ」

ユウタは少し照れながら言いました。

「今日はね、学校でテストが悪くてさ。怒られるかなって思って」

「そう」

よりみちさんはうなずき、窓の外を見ました。

「でもね、坂道って急いで登ると疲れるでしょう?」

「うん」

「だから、ときどき座って休むの。人生も同じよ」

ユウタはしばらく黙って、坂道を見ていました。

風が吹くたび、日だまりがゆらゆら揺れています。

「……また来てもいい?」

「もちろん。寄り道は何回してもいいの」

ユウタが帰るころには、夕方の光が坂道を金色に染めていました。

それからというもの、ぽかぽか坂道の寄り道屋さんには、いろんな人が立ち寄るようになりました。

仕事帰りの大人。
ケンカした友だち。
迷っている人。
ちょっと疲れた人。

みんな少しだけ寄り道をして、少しだけ軽くなって帰っていきます。

そして坂道は今日も、やさしくあたたかいまま。

もしもあなたがこの町を歩いていて、
「なんだか今日は疲れたな」と思ったら、

坂の途中にある小さな看板を探してみてください。

きっとそこには、こう書かれています。

――寄り道屋さん 急がない人、歓迎します。

そしてドアの向こうでは、
よりみちさんがミルクティーを用意して、静かに待っているのです。