町のはずれの丘の上に、小さな配達所がありました。
看板には、少し曲がった字でこう書いてあります。
「ふわふわ雲の配達便」
配達員は、雲をあやつるのが得意な少年、ソラ。
年は十歳くらいですが、雲の運転歴は三年というベテランです。
朝になるとソラは、丘の上の雲牧場に行きます。
そこには、わたあめみたいに丸い雲や、細長くのびた雲、ちょっと寝ぐせみたいにくしゃっとした雲まで、いろんな雲がふわふわ浮かんでいます。
「おはよう、きょうもよろしくね」
ソラが声をかけると、雲たちはぷかぷか揺れて返事をします。
その中から、きょうの配達にぴったりの雲を選ぶのがソラの仕事です。
この日の配達物は三つ。
ひとつめは、町のパン屋さんへ「雨あがりのやわらかい日ざし」。
ふたつめは、学校の屋上へ「ひなたぼっこ用のふわふわ雲」。
そして三つめは、まだ行き先が書かれていない、小さな箱でした。
「ん? 宛先なし?」
箱のラベルには、こうだけ書いてありました。
『さみしい人へ』
ソラは少し考えてから、いちばんやさしそうな丸い雲にまたがりました。
「よし、出発!」
雲はふわっと浮かび、丘からゆっくり空へ上がります。
まずはパン屋さん。
焼きたてのパンの香りが町に広がるころ、ソラは雲のふたを少し開けました。
すると、やわらかい光がふわっと降りて、店の窓をあたためます。
「わあ、きょうの光はいい焼き色になりそうだ」
パン屋のおじさんが笑いました。
次は学校の屋上です。
昼休みになると、子どもたちが屋上に集まります。
「わあ、雲のクッションだ!」
ソラが運んだ雲は、屋上にぽすんと降りて、ふわふわのベッドみたいになりました。
子どもたちは雲に寝転び、空を見上げます。
「空って近いねえ」
ソラは手を振って、また空へ上がりました。
さて、最後の配達です。
「さみしい人、かあ……」
ソラは町を見渡しました。
すると、公園のベンチにひとりで座っている女の子が見えました。
女の子は空を見上げて、ため息をついています。
ソラはそっと雲を降ろしました。
「こんにちは」
女の子はびっくりして目を丸くします。
「ぼく、雲の配達便。これ、きみに届け物」
宛先のない箱を渡すと、女の子はゆっくり開けました。
中から出てきたのは、小さな雲でした。
手のひらに乗るくらいの、ふわふわの雲。
するとその雲が、くすぐったそうにぷくっとふくらんで、女の子のほっぺをくすぐりました。
「……ふふ」
女の子が笑いました。
「ねえ、これ、なんの雲?」
「たぶんね、笑顔を思い出す雲」
女の子は雲を胸にぎゅっと抱えました。
「ありがとう。きょうね、友だちが引っ越しちゃったの」
ソラはうなずきました。
「じゃあ、その雲はぴったりだ。さみしいとき、少しだけ心を軽くする雲だから」
女の子は空を見上げます。
「ねえ、また来る?」
「うん。雲が呼んでくれたらね」
ソラが雲に乗って空へ戻ると、夕方の空がオレンジ色に染まりはじめていました。
丘の上の配達所に帰るころ、雲牧場の雲たちはのんびり漂っています。
ソラは今日の配達帳に書きました。
『本日の配達:笑顔ひとつ、無事到着。』
すると空のどこかで、ふわふわの雲がひとつ、うれしそうに形を変えたのでした。


