朝、窓のすきまから入ってきた光が、机の上でまるい形になっていた。
「……あれ?」
まだ少し眠い目をこすりながら、ぼくはその光をのぞきこむ。
すると光は、まるでパンみたいにふっくらしていて、手を近づけるとほんのりあたたかかった。
そのとき、コン、と窓が鳴った。
振り向くと、ベランダに女の子が立っていた。
ぼくのクラスの転校生、ひよりだ。
風でふわっと揺れる髪の向こうで、ひよりはいたずらっぽく笑った。
「やっぱりここに落ちてた」
「落ちてた?」
ひよりはベランダから部屋にひょいっと入ると、机の光を指さした。
「それ、おひさまだよ」
「え?」
「朝ね、ときどき欠けるの。急いで取りに来たんだけど、半分こになっちゃったみたい」
言われてもう一度見ると、たしかに丸い光は少しかじられたみたいに欠けていた。
ひよりはしゃがみこんで、そっと光を手のひらに乗せた。
まるで本当にやわらかいパンみたいに、光はぷるんと揺れた。
「どうするの?」
「うーん……」
ひよりは少し考えて、それからにっこり笑った。
「半分こしよっか」
「おひさまを?」
「うん。そういう朝もあっていいでしょ」
そう言うと、ひよりは光を指でそっと分けた。
すると、光はふたつの小さなまるになった。
ひとつを、ぼくの手のひらにのせる。
じんわり、あたたかい。
冷えていた指先が、ゆっくり朝になるみたいだった。
「それ持って外行こう」
「外?」
「おひさま、空に返さないと」
ぼくたちは急いで靴をはき、まだ静かな朝の道を歩いた。
町は起きたばかりで、パン屋のシャッターが上がる音や、遠くの鳥の声だけが聞こえる。
公園の小さな丘に登ると、空はまだ少しだけ薄い青だった。
ひよりは両手を空にかざす。
「せーので投げるよ」
「投げるの?」
「うん。空はキャッチ上手だから」
ぼくは半信半疑のまま、手のひらの光を見つめた。
小さなおひさまは、くすぐったそうに揺れている。
「いくよ」
「……うん」
「せーの!」
ぼくたちは同時に、光を空に放った。
すると――
ふわり、と光は落ちるどころか、ゆっくり空へ浮かびあがった。
ひよりの投げた光と、ぼくの光が途中でくっついて、ひとつの大きなまるになる。
その瞬間、丘の向こうから本物の朝がこぼれ出した。
空いっぱいに、やわらかな金色の光。
「……ほんとに戻った」
思わずつぶやくと、ひよりは得意げにうなずいた。
「ね? 半分こでもちゃんと朝になるでしょ」
風が吹いて、草がさらさら揺れる。
さっきまで静かだった町にも、少しずつ人の気配が戻ってきた。
ひよりは空を見上げたまま言った。
「おひさまってね、たぶん分けても減らないんだと思う」
「どういうこと?」
「誰かと半分こすると、ちゃんと元に戻るの」
ぼくも空を見上げる。
さっきまで机の上にあったはずの光が、いまは町ぜんぶを照らしている。
「じゃあさ」
ぼくは言った。
「また落ちてきたら?」
ひよりはくるっとこちらを見て笑った。
「そのときも半分こしよ」
朝の光が、ぼくらの影を長く伸ばしていた。
そしてその日から、ときどき思うようになった。
少し寒い朝や、元気が出ない日には――
もしかしたらどこかに、
半分こできる小さなおひさまが落ちているのかもしれない、って。


