くるくる回る放課後惑星

不思議

わたしの通う学校の屋上には、放課後だけ現れる惑星がある。

チャイムが鳴り終わると同時に、屋上の空気が水面みたいにゆらぎ、そこに直径三メートルほどの小さな星が、くるくると回りながら降りてくるのだ。
色は日替わりで、月曜はレモン色、火曜は群青、水曜は夕焼けみたいな橙色。
今日は金曜日だから、やわらかな薄紫。

最初に見つけたのは、理科室の掃除当番だったわたしだ。
窓の外で、ありえない角度に傾いた地平線を見つけてしまった。
恐る恐る屋上へ出ると、そこに「放課後惑星」はあった。

惑星の表面には、わたしたちの学校とよく似た町が広がっている。
ただし、すべてが少しずつ違う。
校庭は湖になっていて、図書室は森になっている。
体育館の代わりに、雲でできたドームが浮かんでいる。

その世界では、時間がくるくる回っていた。

惑星の上に足を乗せると、重力が横向きになる。
わたしは手すりにつかまりながら、そっと片足を踏み出した。
すると身体がふわりと持ち上がり、気づけば惑星の上に立っていた。

そこでは、三日前のわたしが、まだ言えなかった「ごめんね」を口の中で転がしている。
昨日のわたしが、出せなかった手紙をポケットにしまい込んでいる。
そして明日のわたしが、まだ知らない涙をこらえている。

時間は一本の線ではなく、惑星の自転みたいに回っているのだ。

わたしは三日前の自分に近づき、肩を軽く押した。
「大丈夫だよ」と囁く。
すると彼女は、少しだけ背筋を伸ばした。
昨日のわたしのポケットからはみ出した手紙を、そっと引き出す。
封筒は軽く、まだ未来の重さを持っていない。

惑星は、くるくる回り続ける。
早すぎず、遅すぎず。
わたしがためらうと、回転もゆっくりになる。

「回りたい方向を、選べるんだよ」

声がして振り向くと、クラスメイトの湊が立っていた。
どうやら彼も、この惑星を知っているらしい。

「放課後だけなんだ。みんな、昼間は忙しすぎるから」

湊は笑う。
彼の足元では、未来の彼がバスケットボールを抱え、シュートを外す瞬間を何度もやり直している。

「うまくいかなかった時間は、ここで少しだけ回してあげればいい」

湊はボールを拾い、未来の自分に手渡した。
その瞬間、惑星の回転がわずかに変わる。
外したはずのボールは、リングに吸い込まれていった。

でも、すべてをやり直せるわけじゃない。

惑星の端には、どうしても触れられない時間があった。
もう戻らない約束、言えなかったさよなら。
そこだけは、どんなに回しても同じ場所に戻ってくる。

「回るってさ、忘れるためじゃないんだと思う」

わたしは薄紫の空を見上げる。

「ちゃんと抱えたまま、進むためなんだよ」

その言葉に応えるみたいに、惑星の回転が少し速くなる。
三日前のわたしが「ごめんね」と言い、昨日のわたしが手紙をポストに入れる。
明日のわたしは、涙をこぼしながらも、笑っている。

やがてチャイムの残響が風に溶けるころ、惑星はゆっくりと透明になっていく。

屋上には、いつもの空だけが残る。

でもわたしの足元には、まだかすかな回転の感覚がある。
世界は一直線に進んでいるようで、ほんとうは、くるくる回りながら前へ進んでいる。

来週の金曜日も、きっとあの惑星は現れるだろう。

わたしは今度こそ、未来の自分に先に会いに行くつもりだ。
回る放課後の、その中心で。