この街では、眠っているあいだに年を取る。
目を閉じるたび、時間が体の内側を静かに流れ、朝になると、昨日より少しだけ重くなった自分がそこにいる。
鏡に映る変化はわずかだが、確かで、誰にも止められない。
だから人々は眠ることを恐れ、同時に必要としていた。
眠らなければ生きられないが、眠れば確実に終わりへ近づく。
街の夜はいつも薄く明るい。
眠気をごまかすための灯りが、星よりも多く瞬いている。
私は「目覚め番」の仕事をしている。
夜明け前、眠ってしまった人の家を回り、決められた時刻に起こす。
それ以上眠らせないための仕事だ。
起こすのが一分遅れれば、その人は一日分、余計に老いる。
ある晩、私は路地裏の古い家で、ひとりの女性を起こした。
彼女はいつも、ぎりぎりまで眠り、ぎりぎりで目を覚ます人だった。
「まだ大丈夫?」と彼女は目を開けたまま聞いた。
「ええ、まだ昨日と同じです」
そう答えるのが、私の役目だった。
彼女は笑った。その笑顔は、会うたびに少しずつ、時間の重さを帯びていく。
それでも私は、変わらないふりをした。
変わっていることを認めるのは、この街では残酷すぎる。
ある朝、彼女は眠ったまま、私が呼びかけても起きなかった。
時計はまだ許容範囲を示していたが、私は彼女を揺すらなかった。
理由は自分でもわからない。
ただ、眠っている彼女の顔が、あまりにも穏やかだったからだ。
陽が昇るころ、彼女は目を覚ました。
「……少し、進んだみたいね」
彼女は自分の手を見つめ、そう言った。
私は何も言えなかった。
私が一分を奪ったことを、告げる言葉はなかった。
それから彼女は、少しずつ長く眠るようになった。
街の誰よりも早く年を取り、誰よりも早く静かになっていった。
最後の日、彼女は私に言った。
「起こさなくていい。眠るあいだに進めるなら、それでいい」
彼女が眠り、私は初めて、目覚め番として時計を無視した。
朝、街はいつもと同じ光に包まれていた。
誰もが少しだけ老い、少しだけ昨日を失っている。
私はまだ眠らない。
けれどいつか、この街で、眠ることを選ぶ日が来たなら――そのときは、誰にも起こされずに、静かに年を取ろうと思う。
この街の夜が、私を迎えに来るまで。


