街のあちこちで、人々が私を見るたびに一瞬だけ視線を逸らす。
まるで答えを知っている生徒が、質問されたくなくて目を伏せるみたいに。
その理由を、私はずっと考えていた。
この世界では、物語の結末が共有される。
誕生した瞬間、名前と一緒に「終わり」が登録され、誰でも閲覧できる。
自分以外の誰もが、あなたの最期を知っている。
ただし当人だけは例外だった。
結末を知ると、人はそこへ向かって歩いてしまうから、と説明書には書いてあった。
私は知らない。
だから毎日、駅へ行き、同じカフェで同じ席に座り、同じ時間に帰る。
選択肢を増やさないように。
知らない結末に、余計な枝を伸ばさないように。
それでも人は優しすぎた。
「今日は寒いですね」
「気をつけて帰って」
どれも、別れの前触れのように聞こえてしまう。
ある日、図書館で古い端末を見つけた。
登録ミスで結末が空白になった人の記録を修正するためのものだという。
画面には、私の名前が表示されていた。
修正は簡単だった。
閲覧権限を一段階上げるだけ。
指は震えていた。
知ってしまえば、すべてが意味を持ってしまう。
これまでの曖昧な日々が、一本の線で繋がってしまう。
それでも私は、知りたかった。
自分だけが知らないまま終わるのは、あまりに孤独だったから。
画面に現れた結末は、短かった。
「この物語は、誰にも語られないまま終わる」
意味が分からず、私は笑ってしまった。
その瞬間、端末の画面が暗くなり、周囲の音が遠ざかる。
図書館の人々が、静かにこちらを見ていた。
やっぱり、知っていたのだ。
外に出ると、街はいつも通りだった。
ただ一つ違うのは、誰も私に声をかけなくなったこと。
私は歩き続ける。
結末を知ってしまった今も、何も変わらない日々を。
きっとこの先、私の存在は少しずつ薄れていく。
記憶から、記録から、物語から。
それでもいい、と初めて思えた。
私だけが知らなかった結末を、
今は、私だけが抱えている。


