彼女が泣くと、雨が降る。
それは生まれたときからの、どうしようもない事実だった。
最初に気づいたのは母親だった。
赤ん坊の彼女が声をあげて泣くと、晴れていた空が急に曇り、ぽつり、ぽつりと雨が落ちてくる。
偶然だと思われていたが、何度繰り返しても同じだった。
悲しいとき、怖いとき、寂しいとき。
彼女の涙と空は、いつも連動していた。
成長するにつれ、少女は泣かなくなった。
正確には、泣かないようにした。
運動会で転んでも、歯を食いしばった。
友だちにひどいことを言われても、笑ってやり過ごした。
泣けば、空が泣く。
雨は人の予定を狂わせ、誰かの楽しみを奪う。
自分の感情で世界を濡らしてしまうことが、怖かった。
町の人たちは、いつしか噂を知った。
「雨の子がいる」
優しい目もあったが、距離を取る人もいた。
彼女は、晴れた日の端っこで生きるようになった。
そんな彼女に、ひとりだけ変わった少年がいた。
雨の日が好きだと言う少年だった。
「雨が降ると、世界が静かになるだろ」
そう言って、傘もささずに空を見上げる。
彼女は胸が苦しくなった。
もし自分が泣いたせいで、彼の好きな雨を降らせているのだとしたら。
もし、そうでなかったら。
ある夏の日、町は深刻な水不足に陥った。
川は干上がり、畑はひび割れ、誰もが空を恨めしそうに見上げていた。
その夜、少女はひとりで部屋に座り、初めて思った。
「泣いても、いいのかな」
押し殺してきた感情が、胸の奥でほどける。
悔しさも、孤独も、怖さも、全部一緒にあふれ出した。
涙が頬を伝った瞬間、遠くで雷が鳴った。
雨は、優しかった。
叩きつけるような雨ではなく、大地に染み込む静かな雨だった。
干上がった川に水が戻り、人々は驚き、そして空に感謝した。
翌朝、町は彼女を責めなかった。
誰かが言った。
「雨は、必要なときに降るんだな」
少女は気づく。
自分の涙は、ただ悲しみの印ではない。
世界とつながる、もうひとつの言葉なのだと。
それから彼女は、無理に泣くこともしなければ、無理に笑うこともしなかった。
泣きたいときは泣き、晴れたいときは空を見上げた。
今日もどこかで、静かな雨が降っている。
それはきっと、誰にも見せずに流された、やさしい涙の跡だ。


