雲の上の天界には、ひときわ羽がぼさぼさの小さな天使がいた。
名前はリオ。
仕事は人間に小さな幸運を届けること――なのだが、これがまったくうまくいかない。
プレゼントの箱を風に飛ばして川へ落としたり、導くはずの道しるべを逆向きに立てて迷子を量産したり、そのたびに上司の大天使にため息をつかれていた。
「リオ、おまえは少し現場を知った方がいい。人間界で修行してきなさい」
そう言われて背中を押され、半ば転がるように人間界へ落とされたリオは、気づけば商店街の裏路地にうずくまっていた。
羽はしょんぼり垂れ、後光も弱々しい。
とりあえず生きていくには働かなければならないらしい。
――そして、リオのアルバイト生活が始まった。
最初はパン屋。
焼き立ての香りにうっとりしているうちに、トングを持つのを忘れて素手でパンをつかみ、大騒ぎ。
次は花屋。
花束を明るい気持ちになる順に並べ替えようとして、注文札を全部入れ替えてしまい、店主に土下座で謝られる羽目になった。
配達の仕事では、住所の数字をひっくり返して別の家に届けてしまい、やっぱり大失敗。
「ぼくって、ほんとにダメな天使だ……」
夕焼け色のベンチで肩を落とすリオの隣に、小学生くらいの女の子が座った。
さっきまで泣いていたのか、目が少し赤い。
「どうしたの?」とリオが聞くと、女の子は小さな声で言った。
「明日、転校するの。でもクラスのみんなにうまく言えなくて……」
リオは胸がちくりとした。
失敗ばかりの自分と少し似ている気がしたのだ。
なにか言葉を選ばなくちゃ、と焦って、やっぱりうまく言えない。
沈黙のまま、ただ横に座って、同じ夕焼けを眺めた。
しばらくして、女の子がぽつりと笑った。
「なんかね、となりに誰かいるだけで、少し楽になった」
その言葉に、リオの胸の奥があたたかく灯るのを感じた。
何もできてないと思っていたのに、何かが届いた気がした。
翌日、女の子はクラスで泣きながらも「ありがとう」と言って転校していった。
リオは遠くから見守りながら気づいた――幸運って、きれいに用意された出来事じゃなくてもいい。
誰かのそばに、つまずきながらでも立ち会うこと。
それだって、ちゃんと光になる。
その夜、天界から声が降ってきた。
「よくやりましたね、リオ。合格です」
驚いて羽をばたつかせるリオの背中で、ぼさぼさの羽根がやさしく輝き始める。
失敗は消えなかった。
でも、その全部が彼をここまで連れてきた。
リオはそっと笑った。
「また失敗するかもしれない。でも、そのたびに、誰かの隣で立ち上がればいいよね」
商店街の灯りが一つ、また一つとともり、人間界の夜に小さな羽音が溶けていった。


