ブロッコリーのある食卓

食べ物

彼女の冷蔵庫には、いつもブロッコリーがあった。
特売の日にまとめて買ったもの、新鮮な緑がまぶしいもの、少し茎が太いもの。
どれも彼女にとっては同じくらい愛おしい存在だった。

朝は軽く塩ゆでにして、昼はオリーブオイルとレモンで和え、夜はにんにくと一緒に炒める。
特別な料理ではないけれど、彼女の食卓には欠かせない。
「どうしてそんなに好きなの?」
そう聞かれるたび、彼女は少し考えてから笑う。
「理由はないけど、食べると安心するの」

子どもの頃、彼女の家はあまり裕福ではなかった。
忙しい母は、手早く栄養がとれる野菜として、よくブロッコリーを食卓に出した。
緑色が苦手な弟は文句を言い、父は黙って食べていた。
そんな中で、彼女だけがその味を好きになった。
柔らかい房の部分も、噛みごたえのある茎も、どこか真面目で誠実な味がしたからだ。

大人になり、一人暮らしを始めても、彼女はブロッコリーを買い続けた。
仕事で失敗した日、誰にも弱音を吐けなかった夜、キッチンで湯気の立つ鍋をのぞくと、緑色が心を落ち着かせてくれた。
「ちゃんと生きてるよ」
ブロッコリーは、そう言ってくれている気がした。

ある日、友人を家に招いたとき、彼女はブロッコリーのサラダを出した。
驚いた友人は言った。
「こんなにおいしいと思ったの、初めてかも」
彼女は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
好きなものを、好きなままで出しただけなのに、それが誰かに届いた。

それから彼女は思う。
ブロッコリーが好きなのは、強くなるためでも、健康のためだけでもない。
地味で、目立たなくて、でも確かに支えてくれる存在を、ちゃんと大切にできる自分でいたいからなのだと。

今日も彼女は、湯気の向こうで鮮やかな緑を見つめる。
ブロッコリーは何も語らない。
ただ、変わらずそこにある。
それで十分だと、彼女は知っていた。