冬の初め、石畳の通りの角に、小さなシュトーレン専門店があった。
木の看板には、少し掠れた文字で「ブロートハウス・リーベ」と書かれている。
店は古く、扉を開けるたびに鈴がやさしく鳴り、甘くスパイスの効いた香りが通りにこぼれた。
店主のマルタは白髪混じりの女性で、毎朝まだ暗いうちから店に立ち、生地をこねる。
シュトーレンはすぐに食べるパンではない。
何週間も寝かせ、少しずつ味を深めていく菓子だ。
だからマルタはいつも言う。
「これは、待つことを覚えるパンなのよ」
彼女のシュトーレンには、ドライフルーツが惜しみなく入っていた。
ラム酒に漬けたレーズン、オレンジピール、レモンの皮。
中央には細長いマジパンが埋め込まれ、焼き上がると粉砂糖を雪のように何度も重ねる。
その白さは、初雪の日の静けさを思わせた。
店にはさまざまな客が訪れた。
毎年必ず一番最初に買いに来る老紳士は、「今年も無事に冬を迎えられた」と言って一本抱えて帰る。
若い夫婦は、初めてのクリスマスを迎える年に、小さなシュトーレンを選んだ。
マルタは包みながら、「少しずつ切って食べるのよ」と微笑む。
ある年の冬、店に一人の少女が現れた。
コートは少し大きく、手袋は片方だけ。
少女はショーケースの中をじっと見つめ、やがて小さな声で言った。
「一番小さいの、ください」
マルタは事情を聞かなかった。
ただ、棚の奥から特別に焼いたミニサイズのシュトーレンを取り出し、包み紙に包んだ。
「これはね、時間と一緒に食べるお菓子なの。今日全部食べなくていい」
少女は何度も頭を下げて店を出ていった。
その後、彼女は毎週のように店の前を通り、時々顔を見せるようになった。
少しずつ笑顔が増え、冬の終わり頃には「お母さんと一緒に食べた」と話してくれた。
クリスマスの前夜、街は灯りに包まれ、店内のシュトーレンはほとんど売り切れていた。
マルタは最後の一本を棚に置き、しばらく眺めた。
シュトーレンは、人の時間に寄り添う菓子だ。
喜びの中にも、寂しさの中にも、静かに寄り添う。
翌朝、店の前には新しい足跡が残っていた。
粉雪の上に、いくつもの靴跡。
その中に、小さな靴の跡も混じっている。
マルタはそれを見て、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
今年もまた、シュトーレンの季節が巡る。
時間を包み、想いを重ねながら、小さな店は変わらず冬を迎えていた。


