青い鳥の物語

動物

深い森のはずれ、小さな村にティナという少女が住んでいた。
ティナは生まれつき体が弱く、長い距離を歩くことができなかった。
そのため、村の子どもたちが野原を駆け回って遊ぶ姿を、いつも窓辺から眺めるだけの日々を送っていた。

そんなティナの唯一の楽しみは、森の上を飛び交う鳥たちを観察することだった。
色とりどりの鳥たちの中で、とりわけティナが心惹かれていたのは、どんな鳥よりも美しい青い羽を持つ一羽の小鳥だった。
小鳥は毎日のようにティナの家の前の枝にとまり、彼女の方を見つめるように鳴くのだ。

「あなたはどこから来たの?」
ティナが窓からそっと問いかけても、小鳥はただ澄んだ声で鳴くばかり。
しかし、その声はなぜかティナの心の奥まで届き、胸が温かくなるのを感じた。

ある日、小鳥がティナの部屋の窓辺に、ひとつの青く光る羽を置いていった。
ティナがその羽に触れた瞬間、やわらかな光が広がり、部屋の空気が震えるような感覚が走った。
同時にティナの胸に、小さな声が響いた。

「ぼくを追いかけてごらん。きっと行けるよ。」

驚きとともに、ティナの足がじんわりと温かくなった。
ベッドから立ち上がると、これまででは考えられないほど軽く、力が湧いてくる。
ティナは窓を開け、青い羽を胸に握りしめた。

――小鳥が森の奥へと飛んでいく。

ティナは初めて自分の足で森へと踏み出した。
木漏れ日と風の匂い、土の柔らかさ、すべてが新鮮だった。
小鳥は少し先の枝にとまってはティナを導き、その先へとまた飛び立つ。
ティナの息は上がったが、不思議と足は止まらなかった。

森の奥へ進むにつれ、空気は青い光を帯びていった。
やがてティナは、まるで青い宝石を溶かしたように輝く泉へと辿り着いた。
泉の中央に、小鳥が静かに浮かぶように羽ばたいていた。

「ここは“願いの泉”だよ。」
再び小さな声がティナの胸に響く。
「君が歩きたいと願った心が、ぼくを呼んだんだ。」

ティナは目を瞬いた。
「あなたは……普通の鳥じゃないの?」

「ぼくは、願いを叶える青い鳥。でも、叶えられるのは“自分から歩き出す勇気を持った人”だけなんだ。」

青い鳥の周りに、柔らかな光の粒が舞った。
ティナの胸にあった青い羽がふわりと浮かび上がり、泉の上で輝きながら小鳥の体へと戻っていく。

「ティナ。君の願いは、もう叶ったよ。これからは自分の足で、行きたい場所へ行ける。」

ティナは涙をこぼした。
あの日々、外を眺めることしかできなかった自分が、今こうして泉の前に立っている。
青い鳥に導かれてきたからだ。

「ありがとう……」
ティナがそうつぶやくと、青い鳥は大きく羽ばたいて空へ舞い上がった。
その羽は空へ溶けるように光り、やがて見えなくなった。

森の静けさが戻る中、ティナは深呼吸をした。
足はしっかりと地面を踏みしめている。
歩ける。どこへでも。

その日からティナは、毎日森を散歩するようになった。
花の香りも、風の音も、すべてが新しい世界だった。
そして時々、空のどこかで青く光る羽がちらりと見える気がした。

――あの青い鳥は、きっと今日も誰かの願いを届けているのだろう。

ティナは空を見上げ、そっと微笑んだ。