巡りゆく瓶の旅

面白い

そのガラス瓶は、街はずれの小さなカフェで生まれ変わりの時を待っていた。
もともとはハーブティーの瓶として世界中を旅し、やっと落ち着いた場所がこのカフェだった。
透明な体に、淡い緑のラベル。
中身が空になったその日、店主の紗耶は瓶をそっと洗い、リサイクルボックスへと入れた。

「またどこかで役に立ってね」

瓶に向かってそうつぶやく紗耶の声は優しかった。

リサイクルセンターに運ばれた瓶は、無数の仲間たちと並べられた。
ジュース瓶、調味料の瓶、ジャムの瓶。
みんなかつてどこかで役目を果たしてきた者たちばかりだ。
ガラス瓶は少し誇らしげに思った。
自分もまた、新しい役割を与えられるのだと。

工場では瓶たちが巨大なベルトコンベアに乗せられ、次々と仕分けされていった。
ガラス瓶はその流れに身を任せながら、不思議と怖さはなかった。
何度も使われるたびに傷つき、かけられた価値が薄れていくのだと思っていた時期もあった。
けれど、今は違う。
これからもう一度、新しい形に生まれ変われる。
そう思うだけで、心が軽くなった。

やがて瓶は熱い炉の中に入れられ、仲間たちとともに溶けていく。
熱に包まれ、体が形をなくしていく瞬間、ガラス瓶は胸がじんとするのを感じた。
かつての自分に別れを告げるようでもあり、未来へ進む準備のようでもあった。

どれほどの時間が経っただろうか。
やがて炉から出されたガラスは、きらきらと光を放ちながら型に流し込まれ、まったく新しい姿へと変わっていた。

それは、美しい淡青色の小瓶だった。
形は丸みがあり、どこか温かみを感じさせる。
かつてハーブティーの瓶だったことを思い出せないほど、みずみずしい輝きを放っていた。

小瓶として生まれ変わったガラスは、今度は街の花屋に届けられた。
花屋では若い女性が小瓶を開封し、そっと棚に並べていく。
その顔を見て、ガラスは胸が高鳴った。
自分は今度、何のために使われるのだろう。

ある日の午後、小瓶は一人の女の子に手に取られた。
少女の名前は芽衣。
小学生の彼女は、夏休みの自由研究で「リサイクルでできること」をテーマにしていた。

「この瓶、すごくかわいい!」

芽衣は目を輝かせ、まるで宝物を見つけたように小瓶を抱えた。
花屋の店主が微笑みながら言った。

「それね、リサイクルされたガラスなのよ。前は別の瓶だったんだって」

「えっ…!そんなこともできるの?」

芽衣の驚きと感動が、小瓶にも伝わるようだった。

家に戻ると、芽衣は小瓶に小さな花を一輪挿した。
それは庭に咲いたばかりの白いクローバーだった。
部屋の窓辺に置かれた小瓶は、自分が新しい役割を得たことをひしひしと感じた。
今度は誰かの気持ちを照らす小さな花瓶として生きていくのだ。

芽衣は、自由研究のレポートにこう書いた。

「物にはみんな、まだ続きの物語がある。捨てるんじゃなくて、また使うことで新しい姿に変わる。それって、すごく素敵なことだと思う。」

その言葉を読んだ母は優しくうなずいた。

夕暮れ、窓から差し込む光が、小瓶に宿る淡青色をきらめかせる。
まるでガラス瓶自身が微笑んでいるかのようだった。

——自分はまた誰かの役に立てている。

その思いが、ガラスに静かな幸福を与えていた。
人生に終わりがあるのではなく、形が変わりながら続いていく。
そんな巡りゆく旅の途中で、ガラスは生まれ変わる喜びを知ったのだった。