風まきタツオの大騒動

面白い

その町には、ちょっと変わった“風の子”が住んでいた。
名前はタツオ。
といっても人間ではない。
彼は――生まれたての小さな竜巻だった。

タツオは風が好き、空が好き、そして何より回ることが大好きだった。
だが、生まれたてゆえに力加減がまったくできない。
ほんの少しハシャいだだけで、落ち葉を空高く舞い上げ、洗濯物を隣の家の屋根の上に飛ばしてしまう。

「タツオ! またやったね!」

町の人々は怒りながらも、どこか憎めない存在として彼を見守っていた。
タツオも反省はするのだが、風が吹くたびに身体がむずむずして回りたくなるのだ。

そんなある日、タツオは町外れの丘で、大きな大きな入道雲に出会った。

「おや? ちびっこ竜巻、なにをしているんだい?」

雲の声はどっしりと重く、まるで巨大な綿菓子が喋っているようだった。

「ぼく、もっと上手に回れるようになりたいんだ。でも、つい暴れちゃって……」

タツオの言葉に、入道雲はふむ、と一つうなずいた。

「なら、わたしが特訓してあげよう。空の流れを読むこと、風の声を聞くこと、回るだけが竜巻じゃない。舞うんだよ、タツオ」

こうしてタツオの“竜巻修行”が始まった。

最初の訓練は風の強さをコントロールすること。
入道雲がそっと吐き出した一筋の風に合わせ、タツオはくるりと身をひねった。
すると、小さな渦がやさしく草花の間をすり抜けた。

「できた!」

タツオは嬉しさのあまり、勢いよく回転してしまい――

ドンッ!

木のてっぺんに引っかかっていた凧を落としてしまった。

「タツオ! あぶないって!」

丘で遊んでいた子どもたちは笑いながらも、どこか楽しそうだった。

次に教わったのは、風の流れに“乗る”こと。
タツオは入道雲のまわりを泳ぐように回る練習を繰り返した。
最初は雲にぶつかったり、空に登りすぎてしまったりと失敗続きだったが、何度も挑戦するうちに、少しずつ軽やかに風を渡れるようになった。

「いい調子だ、タツオ」

入道雲が褒めてくれるたびに、タツオは胸(?)がくすぐったくなった。

しかし、最後の難関が残っていた。
それは“困っている人を助ける風”になることだった。

「竜巻は恐れられる存在だ。でも、本当は風は誰かを助けるためにも吹くことができる。タツオ、お前にもできるさ」

その時だった。町の方角で煙が上がった。
古い倉庫が火事を起こしたのだ。
黒い煙がもくもくと広がり、近くの人たちは懸命に水を運んでいた。

「いけるかい、タツオ?」

タツオは大きくうなずいた。

彼は一気に町へと降り、強く回るふりをしながら、実は周りから空気を吸い上げて火から離すように風を操った。
決して炎を煽らないよう、入道雲に教えられた風の流れを読み、やさしく、丁寧に。
すると広がりかけていた火は徐々に弱まり、ついには完全に消えた。

「助かった! タツオ、ありがとう!」

町の人々は口々に礼を言った。
タツオの心はぽかぽかと温かくなった。

その夜。入道雲は満足げに夕日に染まりながら言った。

「タツオ、お前はもう立派な風だよ。好きな場所へ、好きな風を届けておいで」

タツオは夜空へ舞い上がり、町の屋根の上を軽く回りながら、そっと風を届けた。
涼しい夜風に吹かれた町の人たちは、どこか幸せそうに眠りについた。

――こうしてタツオは、世界一優しい竜巻として、今日もどこかでクルクルと楽しく回っている。