ルカは、南の森でいちばん動かないナマケモノだった。
朝になっても起きるのは太陽が空のてっぺんに来てから。
夕方になっても、葉っぱをもぐもぐ食べるだけで、あとはずっと木の枝にぶら下がっていた。
ほかの動物たちは、そんなルカを見てよく笑った。
「おいルカ、そんなにのんびりしてたら、季節が変わっちゃうぞ!」
「おれはそれでもいいんだ」とルカは、ゆっくり笑う。
「葉っぱは逃げないし、空も急がないからね」
けれど森には、急ぐ者たちも多かった。
リスのペピは、どんぐりを集めるのに夢中だし、鳥のトゥリは毎朝遠くまで飛んでいく。
みんな忙しそうで、ルカのように木の上で昼寝している者はほとんどいなかった。
ある日、森に嵐がやってきた。
風が唸り、木々がしなり、雨がざあざあと降り注ぐ。
ルカの木も大きく揺れたが、彼は枝をしっかりつかんでいた。
「静かになるまで、待てばいいさ」
そうつぶやきながら、ルカはゆっくりまぶたを閉じた。
翌朝、嵐は過ぎ去り、森はしっとりと静まっていた。
けれど、ペピのどんぐりはすっかり流され、トゥリの巣も壊れてしまっていた。
森じゅうが、片づけと修復に追われた。
「はあ、せっかく集めたどんぐりが全部……」
「私の巣も、また作り直しだわ」
動物たちは肩を落としていた。
そんな中、ルカが木からゆっくり降りてきた。
「みんな、大丈夫?」
「ルカ、あんたはのんきでいいわね。葉っぱしか食べないし、巣も作らないから、困ることなんてないんでしょ」
トゥリが少し怒ったように言うと、ルカは首をかしげた。
「でもね、ぼくの木の上には、まだ乾いた枝がたくさん残ってるんだ。少し折って持っていっていいよ。巣の材料になるよ」
トゥリは驚いた顔をした。
さらにルカは、ペピのところへも行った。
「どんぐりを埋めてた場所、風で変わったかもしれないね。ぼく、ゆっくり探すの得意だよ。一緒に見つけよう」
こうして、森の動物たちはルカの助けを借りながら、少しずつ元の生活を取り戻していった。
ルカは決して早く動けない。
けれど、焦らず、ひとつひとつ丁寧に手伝った。
ある晩、トゥリがルカの木のそばにやってきて言った。
「ねえルカ、あなたって不思議ね。動きは遅いのに、いつもみんなのことを気づかってる。どうしてそんなに落ち着いていられるの?」
ルカは空を見上げた。
そこには星がゆっくり流れていた。
「ぼくはね、星を見るのが好きなんだ。星は焦らない。急いでも遠くには届かない。だから、ぼくもそうしてるだけ」
トゥリはしばらく黙っていたが、やがて微笑んだ。
「……なるほどね。私も少し、ゆっくり飛んでみようかしら」
——
それからというもの、森の仲間たちはルカの木の下に集まるようになった。
昼下がりの柔らかい時間、みんなで風を感じながら話をする。
ペピは言った。
「急いでばかりじゃ、どんぐりの香りも忘れちゃうね」
トゥリは頷いて、
「飛ぶだけじゃなくて、見下ろす景色を楽しむのも大事ね」
ルカはゆっくり笑いながら、枝を揺らした。
「それでいいんだ。森も、ぼくたちも、急がなくてもちゃんと生きてる」
風がそっと吹いて、木の葉が光を受けて揺れた。
森は静かで、やさしい時間が流れていた。
——
あれから季節が三度変わっても、ルカは相変わらずのんびり木の上にいる。
けれど、森の仲間たちはもう笑わない。
「今日もルカの木の下で、お茶にしよう」
みんなそう言って集まるのだ。
ルカは目を細めて、ゆっくりと答える。
「うん、ゆっくりしていこう。森は今日も、ちゃんと息をしてる」
そして、森には今日も、穏やかな風が吹いていた。


