森のはずれの小さな丘に、一匹のうさぎが暮らしていました。
名前はリリィ。
ふわふわの白い毛と、ぴょこんと立った長い耳が自慢です。
森の仲間たちに囲まれて暮らしていましたが、心の奥底にはいつも小さな願いを抱えていました。
――この森の外の世界を見てみたい。
森の中には木の実も、きらめく小川もあり、仲間と遊ぶのも楽しい。
でも、夕焼けの向こうに広がる大地を眺めるたび、胸が高鳴るのを止められませんでした。
ある日の朝、リリィは決心しました。
「今日から冒険に出るんだ。森の外を見て、自分の足で大きな世界を確かめてみたい!」
背中に木の葉で編んだ小さな袋を背負い、にんじんと木の実を少し詰め込みます。
仲間のりすやことりに見送られながら、リリィは丘を飛び出しました。
最初に待ち受けていたのは、見たこともないほど広い草原でした。
どこまでも続く緑の絨毯に、リリィは思わず駆け出しました。
しかし、その途中で大きな影が横切ります。
上空を舞うのは鷹でした。
リリィは心臓をどきどきさせながら草の陰に隠れ、必死に息を潜めます。
森では味わったことのない恐怖。
けれど同時に、「自分は今、本当に冒険をしているんだ」と感じました。
草原を抜けた先には、小さな村がありました。
木の柵に囲まれた畑、煙の立ち上る家々。
人間の暮らしを初めて目にしたリリィは、驚きと好奇心で胸がいっぱいになります。
けれど近づきすぎてしまい、子どもたちに見つかってしまいました。
「うさぎだ!かわいい!」
「捕まえよう!」
リリィは慌てて走り出しました。
人間の子どもたちの足は速くはありませんでしたが、その声と足音は背中を押すように迫ってきます。
必死で逃げ、ようやく森の茂みに身を隠したとき、リリィは息を切らしながらも笑っていました。
危なかったけれど、知らない世界に触れることは、やはり心を躍らせるのです。
その後もリリィの冒険は続きました。
山を越える途中で道に迷い、フクロウに助けられたり。
大きな川を渡るとき、カメの背中に乗せてもらったり。
ときには嵐に降られて震えながら洞穴で一晩を過ごしたこともありました。
旅のあいだ、リリィはたくさんの出会いを重ねました。
助けてもらうこともあれば、自分が力を貸すこともありました。
泣いている小鳥の雛を巣に戻してあげたときには、胸の奥がじんわり温かくなり、「自分にもできることがあるんだ」と知りました。
長い旅を終えて森へ戻ったのは、出発からちょうど一か月後の満月の夜でした。
仲間たちは大喜びで迎え、リリィはたくさんの思い出を語りました。
怖かったこと、楽しかったこと、初めて見た広い世界の景色。
そして最後に、こう言いました。
「冒険に出て分かったの。世界は大きくて驚くことばかり。でもね、どんなに遠くまで行っても、帰ってきたい場所があるって、とても幸せなことなんだって」
月明かりに照らされた森の中で、リリィは心から微笑みました。
冒険は終わりましたが、その瞳は以前よりもずっと強く、輝いていました。
――そしてリリィは知っていました。
きっとまたいつか、新しい冒険に出る日が来ることを。