ゼリーのきらめき

食べ物

子どもの頃から、健太はゼリーが好きだった。
色とりどりに透き通った姿が、まるで宝石のように見えたのだ。
ゼリーを口に含むと、ぷるんと震え、舌の上でほどけていく。
その感触に彼はたまらなく幸せを感じた。
兄や姉がケーキやチョコレートに目を輝かせる中、健太だけはいつもゼリーを選んだ。

大人になるにつれて、ゼリーへの思いはますます強くなった。
コンビニやスーパーで新しい味を見つけると、必ず試した。
ぶどう、みかん、コーヒー、さらにはコラーゲン入りや、野菜を使ったものまで。
冷蔵庫には常に十種類以上のゼリーが並び、来客からは驚かれるほどだった。

そんな健太の姿を見て、同僚からは「ゼリー博士」と冗談めかして呼ばれることもあった。
だが、彼は笑って否定しなかった。
ゼリーはただの嗜好品ではなく、自分の心を潤す存在なのだ。

ある日、健太は街角の小さな洋菓子店に足を止めた。
ガラス越しに並んでいるのは、宝石のように輝くゼリーの数々。
赤や黄、透明な層の中に果実が閉じ込められている。
それはコンビニやスーパーでは見かけない、職人の技が光る逸品だった。
思わず店に入り、数種類を購入して口にした瞬間、健太の胸に電流が走った。

「これだ……」

それはただ甘いだけのゼリーではなかった。
果物の酸味や香り、食感が生かされ、光を受けるたびに角度を変えて輝いた。
彼の頭にひとつの夢が芽生えた。

――自分も、こんなゼリーを作ってみたい。

それから健太は、休日ごとにキッチンに立つようになった。
最初は市販の粉ゼラチンを溶かして果汁を固めるだけだったが、やがて果物のカットの仕方や、甘みの調整、層を重ねる技法に挑戦した。
失敗も多かった。
固まりすぎたり、味がぼやけたり、見た目が濁ってしまうこともあった。
だが、そのたびに健太はレシピを改良し、少しずつ自分の理想に近づけていった。

作ったゼリーは同僚や友人に配った。
最初は「ちょっと甘いね」とか「果物が沈んじゃってる」と遠慮がちに言われたが、次第に「これ、本当に美味しい!」「お店を開けばいいのに」と褒められるようになった。
健太は照れながらも、胸の奥が温かくなるのを感じた。

数年が経った。
健太はついに思い切って会社を辞め、小さなゼリー専門店を開いた。
店の名前は「Lumière(ルミエール)」。
フランス語で“光”を意味する言葉だ。
ゼリーが光を透かし、きらめく姿にぴったりだと感じたからだ。

店のショーケースには、季節ごとに変わるゼリーが並ぶ。
春は桜の花びらを閉じ込めた淡いピンクのゼリー。
夏は涼しげな青と透明の二層に、柑橘を浮かべたゼリー。
秋は栗と紅茶の風味を重ねたもの。
冬は苺とミルクのコントラストが美しいもの。

開店当初は客足もまばらだったが、SNSで写真が拡散されると、瞬く間に人気店となった。
透明なゼリーの中に咲く小さな果実の花のような美しさが、人々の心をつかんだのだ。

健太は、忙しい日々の中でもゼリーを愛する気持ちを失わなかった。
仕込みの最中、光を受けて揺れるゼリーを見つめるたびに、子どもの頃の気持ちが蘇った。

――ゼリーって、やっぱり宝石みたいだ。

ある日、店にやってきた小さな女の子が、母親の手を引きながらケースをのぞき込み、目を輝かせた。

「ママ、これ、食べたい!きらきらしてる!」

その姿を見て、健太は思わず笑みをこぼした。
自分もかつて同じようにゼリーを宝石だと思っていた。
今度はその感動を、自分が作るゼリーで人に届けられている――そう思うと胸が熱くなった。

店を閉めた夜、健太は冷蔵庫から一つのゼリーを取り出した。
ぶどうを閉じ込めた、子どもの頃から好きだった味だ。
ひと口すくって口に含む。
ぷるん、とした食感と、みずみずしい甘さが広がった。

その瞬間、健太は静かに確信した。
自分の人生を導いてくれたのは、この透明で揺れる小さな宝石だったのだと。

そしてこれからも、ゼリーと共に歩んでいくのだろう。