栄養の道を歩む

面白い

大学を卒業した春、真由は地元の病院に就職した。
管理栄養士として働くことが夢だったが、まずは栄養士として経験を積む必要があった。
国家試験に合格しなければ、管理栄養士として名乗ることはできない。

病院の厨房は、朝の五時から慌ただしく動き出す。
大量の食材を仕分け、切り、煮込み、盛りつける。
患者の体調や病状に合わせて献立を変える必要があるため、レシピは細かく調整されていた。
真由は必死に先輩について回り、調理や配膳の流れを覚え、患者の様子を観察した。

ある日、糖尿病で入院している高齢の男性が、食事をほとんど口にしないことに気づいた。
薄味で食欲が湧かないのだと苦笑いするその姿に、真由は胸を痛めた。規定通りの食事を出すだけでは足りない。
「栄養」と「食べる喜び」の両方を届けなければならないのだと、その時思った。

「いつか自分が管理栄養士になったら、患者さん一人ひとりに合わせた食事を提案できるようになりたい」

そう心に誓った真由は、勤務を続けながら国家試験の勉強を始めた。

試験勉強は容易ではなかった。
栄養学、生化学、解剖学、公衆衛生学など幅広い分野の知識が求められる。
仕事が終わってから参考書を開いても、疲労で目がかすみ、集中力が続かない。
休日も図書館にこもり、模試を解いた。

不安は常につきまとった。
試験の合格率は決して高くなく、何年も挑戦している人がいると聞く。
そんな中、同期の友人が次々と試験に合格していく姿を見て、焦りと劣等感が胸を締め付けた。

しかし、支えてくれる人たちがいた。
厨房で一緒に働く調理員のおばさんは「無理しすぎないでね」と温かいお茶を差し出してくれた。
患者の一人は「あなたの笑顔を見ると元気が出る」と声をかけてくれた。
両親も「真由ならできる」と信じて応援してくれた。

迎えた試験当日。
緊張で手が震え、鉛筆を握る手のひらに汗がにじむ。
問題用紙を開いた瞬間、一度は心が真っ白になったが、これまで積み重ねてきた努力を思い出し、一問一問に向き合った。

数か月後、合格発表の日。
インターネットの画面に自分の番号を見つけたとき、真由は思わず声を上げた。
涙が溢れ、震える指で両親に電話をかけた。
「受かったよ!」と告げると、受話器の向こうで母が泣きながら喜ぶ声が聞こえた。

管理栄養士として再び病院に立った真由は、以前よりも責任ある仕事を任されるようになった。
患者一人ひとりの栄養状態を評価し、医師や看護師と連携して栄養指導を行う。
食事の内容を工夫して、食欲を失っていた患者が少しずつ箸を進める姿を見ると、心からやりがいを感じた。

あの時、糖尿病の患者が食事を残した光景が、ずっと背中を押してくれたのだと思う。
食べることは生きること。
栄養は数字や理論だけでなく、人の心や希望に寄り添うものだ。

真由は今日も厨房に立ち、病室を回り、カルテを読み込む。
夢を叶えたその先に、さらに広い道が広がっていることを知ったからだ。

そして心の中で、未来の自分に語りかける。
「管理栄養士になったからが、本当のスタートだよ」と。