はじめてのうみ

動物

海の青さが朝日に照らされて、キラキラと輝いていた。
岩の隙間に、小さなふわふわのかたまりがひとつ。
そう、それは生まれたばかりの赤ちゃんラッコのリオだった。

リオはお母さんラッコのお腹の上で、ぽかぽかと日差しを浴びながら、ゆっくりと目を開けた。
海の音、カモメの声、潮の香り。
すべてが新しくて、不思議だった。

「おはよう、リオ。今日はね、はじめて泳ぎの練習をするよ」

お母さんがやさしく言った。
リオはびっくりして、小さな前足をばたばたさせた。

「う、うみのなか? こわいよ!」

「だいじょうぶ。お母さんがずっとそばにいるから」

お母さんはそう言って、リオをそっと海に浮かべた。
冷たい水に触れて、リオはちょっとだけ震えたけど、ふわりと浮かぶ感覚に、少しずつ楽しくなってきた。

リオは最初、ぷかぷかと浮いているだけだった。
でもお母さんが見せてくれるように、足をけってみると、少しだけ前に進んだ。

「やった! すすんだ!」

「そう、それよ。リオ、上手よ」

リオはにこにこと笑った。
お母さんの笑顔は太陽みたいにあたたかくて、心がぽかぽかになった。

何日かたつと、リオは自分でひとりで少し泳げるようになった。
でも、まだ潜るのはこわかった。
海の下はくらくて、何がいるかわからない。

そんなある日、リオがひとりで岩のまわりを泳いでいると、何かが海の底で光った。

「ん? あれ、なに?」

気になったリオは、思いきってちょっとだけ潜ってみた。
するとそこには、白くてまるい、きれいな貝があった。

「わあ……きれい」

でもそのとき、後ろからぬるりと何かが動いた。

「ウツボだ!」

リオはびっくりして、水面にむかって急いで泳いだ。
でも、からだがうまく動かない。

そのとき——どぼん! と音をたてて、お母さんが海に飛びこんだ。
大きな体でリオをかばい、ウツボをにらんだ。

ウツボはこそこそと岩のすきまに逃げていった。

「だいじょうぶ? リオ!」

お母さんがリオを抱きしめる。
リオはぶるぶるふるえながら、涙をこぼした。

「こわかった……でも、きれいなかいが、ほしくて……」

お母さんはリオの頭をなでながら、にっこり笑った。

「リオは、勇気があるね。でも、海には危ないこともある。だから、ちゃんと準備してからにしようね」

「うん……」

その夜、リオはお母さんのお腹の上でぐっすり眠った。
夢のなかでも、白く光る貝がゆらゆらと輝いていた。

それから数週間後——

リオはもう、ひとりで潜れるようになっていた。
海藻で頭に小さな帽子を作ったり、石で貝を割ったりすることもできるようになった。

そして、ついに。

あの日見たあの白い貝を、もう一度探しに行った。
今度はお母さんといっしょだ。

リオは深く深く、ゆっくりと潜っていった。

——あった!

白くてまるくて、月のように輝くその貝は、まるでリオを待っていたようだった。

リオはやさしくその貝を手に取り、お母さんのところへ戻った。

「きれい……リオ、よくがんばったね」

「うん。こわかったけど、がんばった!」

海は広くて、こわいものもあるけれど、やさしさと勇気があれば、きっとどこまでも進んでいける。
リオはそう感じていた。

その日から、リオは毎日少しずつ冒険の範囲を広げていった。
今日もまた、新しい発見とともに——。