アフリカの広いサバンナに、首のとても長いキリンの女の子が住んでいました。
名前はキキ。
まだ小さな子どもキリンですが、背はもう大人のシマウマよりずっと高く、首を空に向けると、遠くの雲まで見えるほどでした。
キキには夢がありました。
それは「空を飛ぶこと」。
毎日、空を見上げては鳥たちに話しかけます。
「ねえ、どうしてそんなに高く飛べるの?風に乗って、どこまででも行けるの?」
鳥たちは笑って、「キキ、君の首はもう十分高いじゃない。空を歩いてるみたいだよ」と言いました。
でもキキは納得しません。
「羽がなくても、空を飛ぶ方法があるはず!」
ある日、風が強く吹いた日のことでした。
遠くの村から飛んできた不思議な帽子が、くるくると回りながらキキの頭の上にポトンと落ちてきました。
それは大きくて丸い、赤と青の模様がついた空飛ぶ帽子。
風に乗ってふわふわと動き、まるで生きているかのようでした。
キキは思わず、「これに乗ったら飛べるかも!」とわくわくしました。
「でも、帽子は頭にかぶるものじゃないの?」と、カバのカボが言いました。
「そうだよね。でも、これは普通の帽子じゃないよ。空から降ってきたんだから!」
キキは帽子を首のてっぺんにちょこんと乗せて、試しにジャンプしてみました。
ぴょーん!
……地面に戻りました。
「やっぱりダメかぁ」とキキががっかりしていると、帽子が突然光りました。
ぱああああっ!
すると帽子がキキの体をふんわりと持ち上げ、なんと空に向かって浮かび始めたのです!
「わああ! と、飛んでる! 私、飛んでるよー!」
サバンナの動物たちはみんなびっくり。
ゾウのゾーラは鼻を高くして見上げ、チーターのチータンは走りながら「ずるいぞー!」と叫びました。
キキは空の上から、地上の風景を見渡しました。
大きなバオバブの木のてっぺん、風に揺れる草原、光る川。
すべてが新鮮でキラキラして見えました。
でも、風が急に強く吹いて、帽子がぐらりと揺れます。
「きゃー! 落ちるー!」
そのとき、上空にいた大きなコウノトリが羽ばたいて近づき、「つかまって!」とキキに叫びました。
キキは帽子のひもをぎゅっと握りながら、コウノトリの背中に手(正確には首)を伸ばします。
なんとかバランスを取り戻し、帽子もふわりと安定しました。
「ありがとう、コウノトリさん!」
「空は風の気まぐれがあるから気をつけなきゃね」と、コウノトリは優しく笑いました。
キキはその日、サバンナ中を飛び回り、最後は静かな夕焼けの中、帽子に導かれて無事地面に降りました。
「どうだった?」と動物たちが口々に聞きます。
「最高だったよ! 空には色んな風があって、音があって、見たことない景色があるの。みんなにも見せてあげたいなあ!」
「でも帽子は一つだけだし……」
「じゃあ、みんなで空を飛べるように工夫してみようよ!」
その日から、キキと仲間たちは毎日、空を飛ぶ研究を始めました。
風船をつけたカゴ、風に乗る布、長い竹の棒でジャンプ……成功はしなかったけれど、毎日が冒険でした。
そしてキキは、こう思うようになったのです。
「空を飛ぶのも楽しいけど、みんなと一緒に夢を追いかけるのが、一番楽しい!」
帽子は今でも、大切にキキの木の家に飾られています。
そして風が強く吹いた日には、時々ふわりと空に浮かんで、キキにこうささやくのです。
「また、空の旅に行こうよ」
キキは今日も空を見上げて、笑顔を浮かべています。