瑠奈はピアスを集めるのが何よりも好きだった。
耳だけでなく、軟骨やへリックス、さらには舌や眉に至るまで、小さなアクセサリーが彼女の体を彩っていた。
しかし、彼女にとってピアスは単なるファッションではなかった。
彼女のコレクションにはそれぞれ意味がある。
高校を卒業した日に開けたルビーのピアス、大学の入学式の前夜に友人と衝動的に開けたシルバーのリング、大失恋を乗り越えた証として選んだブラックオニキスのスタッド。
その一つ一つに物語が刻まれていた。
ある日、瑠奈はとあるアンティークショップで、不思議な輝きを放つピアスを見つけた。
深い青色の石がはめ込まれたシルバーのフープピアスで、まるで夜空のように神秘的だった。
値札を確認すると、それは意外にも手頃な価格だった。
「それ、気に入ったの?」
店主の老婦人が声をかけてきた。
瑠奈が頷くと、老婦人は静かに続けた。
「そのピアスにはね、面白い言い伝えがあるのよ。持ち主の願いを叶える代わりに、ひとつ大事なものを奪っていくってね」
瑠奈は冗談めかして笑った。
「そんなの、ちょっと怖いですね」
「信じるか信じないかは、あなた次第よ。でも、過去の持ち主たちは皆、何かを失ったって話よ」
言い伝えには興味があったが、それでも瑠奈はそのピアスを買うことにした。
帰宅するとすぐにピアスを消毒し、左耳の新しく開けた穴に通した。
すると、不思議なことが起こった。
翌朝、目を覚ますと、瑠奈は思い出した。
昨夜、彼女は心から願っていた。
「本当に大切な人と出会えますように」と。
その日、瑠奈は偶然にも、以前から気になっていたカフェの店員・悠真と会話をする機会を得た。
今までは注文をするだけだったが、その日は彼のほうから「いつも来てくれますよね」と話しかけてくれた。
自然と会話が弾み、次第に距離が縮まっていく。
まるで、ピアスの魔法が彼女の願いを叶えたかのようだった。
しかし、奇妙なことに、瑠奈は何かが欠けているような感覚を覚えた。
思い出そうとすると、まるで霧がかかったように頭がぼんやりする。
何かを、失ったのだろうか。
数日後、彼女は気づいた。
大切な親友・美咲の連絡先が、スマホから消えていた。
SNSを検索しても、彼女のアカウントが見当たらない。
それどころか、彼女に関する記憶が曖昧になっている。
まるで、美咲が最初から存在していなかったかのように。
ぞっとした瑠奈は、すぐにピアスを外し、アンティークショップへと駆け込んだ。
しかし、そこには店も店主も存在しなかった。
まるで、最初からそんな店はなかったかのように。
瑠奈は震えながらピアスを見つめた。
これは偶然なのか、それとも本当に言い伝えの通りなのか。
彼女はそっとピアスを宝石箱にしまい、もう二度と身につけることはなかった。
それでも、悠真との関係は深まっていく。
だが、美咲の存在が薄れたことへの罪悪感は、彼女の心に深く刻まれたままだった。
そして彼女は、これまでのピアスの一つ一つを見つめながら思った。
自分にとって、本当に大切なものは何だったのか、と。