小さな町の外れに、ひっそりと佇む工房があった。
看板には「フェルトの魔法工房」と書かれている。
そこでは、どんな願いも叶える特別なフェルト細工が作られているという噂があった。
工房の主は、銀色の髪をしたおばあさん――マリアだった。
彼女の手から生み出されるフェルトの動物や人形たちは、まるで命を持っているかのように生き生きとしており、時折、不思議な動きをすることさえあった。
ある日、町に住む少女リナが工房を訪れた。
リナは幼い頃に母を亡くし、父と二人で暮らしていたが、最近、父が仕事で忙しく、家で一人ぼっちになることが増えていた。
「こんにちは。マリアさんの工房って、本当に魔法が使えるんですか?」
リナが尋ねると、マリアはくすりと笑った。
「魔法というほど大げさなものではないけれどね。フェルトには、不思議な力があるのよ」
そう言いながら、マリアは柔らかなフェルトの布を広げた。
「今日はどんなものを作りたいの?」
リナは少し考えてから答えた。
「私、お父さんが忙しくても寂しくないような、話し相手がほしいんです」
マリアは優しくうなずくと、リナに椅子を勧めた。
「じゃあ、一緒に作ってみましょう。自分の手で作ると、より特別なものになるわよ」
こうして、リナとマリアはフェルト細工を始めた。
リナが選んだのは、ふわふわしたウサギの人形だった。
マリアが手ほどきをしながら、リナは慎重に針を刺し、丁寧に綿を詰めていく。
数時間後、ついにリナのウサギの人形が完成した。
ピンク色の耳に、小さな青いボタンの目が輝いている。
「わあ、かわいい!」
リナが嬉しそうに抱きしめると、不思議なことが起こった。
ウサギの人形がふるふると震え、柔らかい声で「こんにちは」と喋ったのだ。
「えっ!? 喋った?」
リナが驚いていると、マリアは微笑んだ。
「あなたの願いが、この子に宿ったのよ。フェルト細工には、作り手の想いが込められるの」
リナはウサギの人形をじっと見つめた。
「じゃあ、この子は……私の友達になってくれるの?」
「もちろんよ。あなたが心を込めて作ったんだから」
リナは嬉しそうに頷き、ウサギの人形に「ルル」という名前をつけた。
その日から、ルルはリナのそばに寄り添い、寂しい時には優しい言葉をかけてくれるようになった。
やがて、リナはフェルト細工の楽しさに夢中になり、自分でも新しい仲間を作るようになった。
ある時は子猫のぬいぐるみ、またある時は小さな鳥のストラップ。
どの作品にもリナの想いがこもり、まるで本当に生きているかのようだった。
そんなリナの成長を見守りながら、マリアは静かに微笑んでいた。
「フェルトには、人の心を温かくする力があるのよ」
それから数年後、リナは立派なフェルト作家になり、自分の工房を開いた。
マリアから受け継いだ「フェルトの魔法」は、今もたくさんの人々を笑顔にしている。