透明な夢

面白い

瑠璃(るり)は、小さなアトリエでレジンアートを作るのが日課だった。
彼女の作品は、光を受けて七色に輝き、見る者の心を惹きつける。
透明な樹脂の中に、繊細な花や貝殻、小さな時計の歯車を閉じ込めることで、時間を止めたかのような幻想的な世界を生み出していた。

そんな彼女の夢は、自分の作品で誰かの心を動かすことだった。
しかし、現実は甘くない。
個展を開いても訪れるのは数えるほどの人。
ネット販売も始めたが、知名度がないためか、ほとんど売れない日々が続いていた。
それでも瑠璃は諦めなかった。

「この世界には、まだ私の作品を待っている人がいるはず」

そう信じて、今日も彼女はレジンを型に流し込んだ。

ある日、瑠璃のアトリエを訪れたのは、若い女性だった。

「すみません、ここでレジンアクセサリーを作っていると聞いたんですけど……」

黒髪のショートカットに、大きな瞳が印象的な彼女は、少し緊張した面持ちで立っていた。

「はい、私が作っています」

「実は、特別なプレゼントを探していて……。友人が、ずっと入院しているんです。でも、何を贈ればいいのかわからなくて……」

そう言って、彼女は切なそうに笑った。

「その方は、どんなものが好きなんですか?」

「海が好きなんです。昔はよく一緒に行っていたんですけど、病気になってからは行けなくなってしまって」

瑠璃は、その言葉を聞いて少し考えた。
そして、静かに頷くとこう言った。

「では、海を閉じ込めたような作品を作ってみます」

瑠璃は、その女性の友人のために特別なレジンアートを作ることに決めた。
彼女が選んだのは、深い青のレジンに細かな貝殻と砂を閉じ込めたペンダント。
透明な波紋のような模様を施し、光が当たると本物の海のように揺らめくデザインにした。

完成した作品を手に取ったとき、瑠璃はふと昔のことを思い出した。

――小学生の頃、母と一緒に訪れた海。
潮風に吹かれながら拾った貝殻を、大事そうにポケットにしまったこと。

「これを持っていれば、いつでも海を思い出せるよ」

母の優しい声が、まるで今も聞こえるようだった。

その記憶が蘇った瞬間、瑠璃は思った。

「私が作りたいのは、ただのアクセサリーじゃない。
誰かの大切な思い出を形にすることなんだ」

後日、例の女性が再びアトリエを訪れた。

「できましたか?」

瑠璃はペンダントをそっと差し出した。

「この中に、小さな海を閉じ込めました。お友達が、いつでも海を感じられるように」

女性はペンダントを見つめると、目を潤ませながら微笑んだ。

「すごい……本当に海みたい。きっと喜んでくれると思います」

それから数日後、その女性から手紙が届いた。

『友人は涙を流しながら、ペンダントを大切に握りしめていました。「これをつけていると、本当に波の音が聞こえる気がする」と言っていました。本当にありがとうございました』

その手紙を読んだ瞬間、瑠璃の胸にじんわりと温かいものが広がった。
自分の作品が、誰かの心を動かした。

「よかった……」

彼女はそっと空を見上げた。
青く澄んだ空は、まるでどこまでも広がる海のようだった。

それから瑠璃は、ますます作品作りに打ち込むようになった。
彼女のレジンアートには、誰かの思い出や願いが込められている。
その想いが、少しずつ広がっていくことを願いながら、今日も彼女はレジンを流し込む。

透明な夢を、形にするために。