僕の名前は「クリアドロップ」。
小さなガラス瓶に詰められた目薬で、街の薬局に並んでいる。
ただの目薬として生まれた僕だけれど、実はちょっとした夢があった。
それは、「誰かの大切な瞬間を守ること」。
僕は薬局の棚でしばらく過ごした。
周りの仲間たちは次々に売れていくが、僕はなかなか手に取ってもらえなかった。
ちょっと落ち込んでいたある日、ようやく僕を選んでくれる人が現れた。
彼女の名前は「千夏(ちなつ)」。
大学生で、勉強やアルバイトに忙しい日々を送っているらしい。
僕は彼女のカバンの中に入れられ、ようやく役に立てる日が来ることを楽しみにしていた。
ある日、千夏は大切な試験を迎えていた。
夜遅くまで勉強し、眠い目をこすりながら机に向かっていた。
そんな時、僕の出番がやってきた。
彼女は疲れた目を癒すために、僕のキャップを開けてそっと目にさした。
「ふぅ……すっきりする……」
僕は彼女の目の奥に広がる世界を覗いた。
そこには夢があった。頑張る理由があった。
僕はその夢を応援したくなった。
試験当日、千夏は少し緊張していた。
会場に向かう途中、何かを考え込んでいるようだった。
ふと足を止め、カバンから僕を取り出した。
「……大丈夫、大丈夫」
僕のひんやりとした一滴が、彼女の瞳に触れた。
緊張で乾きかけた目が潤い、心なしか彼女の表情も和らいだように見えた。
試験は無事に終わった。
結果がどうであれ、彼女は全力を尽くした。
僕は彼女の頑張りを知っているから、それだけで十分だと思った。
その後も千夏は僕を何度も頼ってくれた。
アルバイトの後、夜更かしした翌朝、そして友達と語り合ったあと。
僕は彼女の大切な時間を支える一部になれた気がして、嬉しかった。
しかし、僕の役目には限りがある。
少しずつ、僕の中の薬液が減っていった。
もうすぐ、僕は彼女のカバンからいなくなる。
ある日、千夏は僕を手に取り、小さく呟いた。
「もうすぐなくなっちゃうな……でも、ありがとうね」
その言葉を聞いた瞬間、僕は自分の夢が叶ったことを悟った。
やがて、僕は彼女のカバンから姿を消した。
でも、僕の一滴一滴は、彼女の大切な時間の中に溶け込んでいる。
僕は「誰かの大切な瞬間を守ること」ができたのだから、それで十分だ。
そう、僕の物語は、ここで終わる。
でも、また新しい目薬が、誰かの物語を紡いでいくのだろう。
──どこかで、誰かの瞳を潤すために。