昔々、南の国のとある村に、美味しいトルティーヤを作ることで有名な少女、マリアがいました。
マリアは毎朝、まだ太陽が昇る前から起き出して、とうもろこしの粉を捏ね、生地を薄く延ばしては焼き上げるのが日課でした。
彼女の作るトルティーヤは、外はパリッと、中はふんわりとしていて、村中の誰もが彼女の料理を楽しみにしていました。
ある日、村に大きな嵐がやってきました。
激しい雨風に見舞われた村は、畑が荒れ、家々の屋根は吹き飛ばされ、村人たちは困り果てていました。
マリアの家も例外ではなく、トルティーヤを作るための材料であるとうもろこしの収穫もままならなくなってしまいました。
「どうしよう…。」
マリアは悲しみに暮れましたが、村の人々を助けるために何とかしなければと決意しました。
彼女は残された少しのとうもろこし粉と井戸水を使い、精一杯の心を込めてトルティーヤを作り始めました。
毎日限られた量しか作れませんでしたが、彼女はそれを最も困っている家族のもとへ持っていきました。
「ありがとう、マリア。あなたのトルティーヤのおかげで、家族みんなで温かい食事をとることができるよ。」
人々の感謝の言葉を受け取るたびに、マリアの心は少しずつ温まりました。
しかし、とうもろこし粉も日に日に減っていき、ついにはすべてを使い果たしてしまいました。
「これで最後のトルティーヤね…。」
涙をこらえながら、マリアは最後のトルティーヤを焼き上げました。
その夜、彼女は神様に祈りました。
「どうか、村の人々に食べるものを与えてください。」
翌朝、不思議なことが起きました。
マリアの畑にわずかに残っていたとうもろこしの茎から、鮮やかな黄色い実が次々と実り始めたのです。
まるで畑が奇跡によって蘇ったかのようでした。
マリアは驚きながらも感謝し、再びトルティーヤ作りに精を出しました。
村の人々はこの奇跡を「マリアの恵み」と呼び、彼女の作るトルティーヤをより一層大切にするようになりました。
そしてマリアも、食べ物の大切さ、分かち合う喜びを心から理解しながら、これからも村のためにトルティーヤを作り続けることを誓ったのでした。
それから何年経っても、村人たちが集まる食卓には必ずマリアのトルティーヤがあり、その香ばしい香りはいつまでも村を包み込んでいました。