奇食探究家・タケルの冒険

面白い

タケルは子どものころから普通ではない食べ物に心を奪われていた。
初めてカエルの足を食べたときのあの衝撃的な美味しさと、周囲の人々の驚いた顔が、彼の心に深く刻まれていた。
以来、タケルは「誰も食べたことのないものを味わいたい」という欲望に突き動かされるようになった。
彼は自らを「奇食探究家」と名乗り、世界中の変わった食べ物を求める旅に出ることを決意した。

最初の目的地はアイスランドだった。
タケルが狙ったのは「ハカール」という、サメの肉を発酵させた料理だ。
地元の人でも匂いを嫌がることで有名で、アンモニア臭が強烈らしい。
「これぞ挑戦にふさわしい一品だ!」タケルは鼻をつまみながら、恐る恐るハカールを口に運んだ。
一瞬、刺激臭が鼻を突き抜け、涙が出そうになった。
しかし、噛みしめると独特の旨味と深い味わいが広がったのだ。
「……クセになる!」タケルは笑った。
未知の味覚が脳を刺激する瞬間、彼は生きている実感を覚えるのだった。

次に向かったのはフィリピン。
そこでタケルが挑んだのは「バロット」、孵化寸前のアヒルの卵だ。
中には羽やくちばしが形成されつつある雛が入っている。
タケルは一瞬ためらった。
だが、バロットを前に引き下がるわけにはいかない。
殻を割り、卵の中身を啜ると、濃厚なスープのような味わいが広がった。
形ある部分を口に含むと、鶏肉と卵の中間のような柔らかさがあった。
「……なるほど。命の味だ。」タケルは感慨深くつぶやいた。
生命をいただくことの重みを、この一口で深く感じたのだ。

旅の締めくくりにタケルが選んだのは、日本に戻っての「フグの肝」だった。
調理を誤れば猛毒となるこの珍味は、許可を得た限られた料理人だけが扱える。
フグ専門の老舗店で提供されたフグの肝を前に、タケルは深呼吸をした。
一口頬張ると、クリーミーで濃厚な旨味が口いっぱいに広がった。
命を落とす可能性と隣り合わせのスリルと、この極上の味わいが、タケルにとって究極の体験となった。
「これ以上の冒険はないだろう。」そう思った瞬間、料理長が一枚の紙を差し出した。
そこには「世界の未確認食材リスト」と題され、見たこともない料理の名前が並んでいた。

「次の冒険は、ここから始まるんだな。」タケルはにやりと笑った。
彼の奇食探究の旅は、まだまだ終わりそうにない。