小さな町のはずれに、サクラという名前の少女が住んでいた。
サクラはリボンが大好きだった。
赤、青、黄色、ピンク——彼女の部屋には色とりどりのリボンが飾られており、毎日その日の気分に合わせて選んでは髪に結んでいた。
サクラにとって、リボンはただの飾りではなかった。
幼い頃、母が語ってくれた話の中に、「特別なリボンは願いを叶えてくれる」というものがあったからだ。
母はサクラの髪に小さな白いリボンを結び、「このリボンが君を守ってくれるよ」と微笑んだ。
その母は数年前に病で亡くなってしまったが、サクラは今でもその白いリボンを大切に持っていた。
ある春の日、サクラは町の古い雑貨屋で不思議なリボンを見つけた。
深い紫色に金色の刺繍が施されたそのリボンは、まるで夜空に輝く星のようだった。
サクラはなぜかそのリボンに強く惹かれ、迷わず手に取った。
「それは特別なリボンだよ。」
店の奥から現れたのは、白髪の老婦人だった。
深いしわの中に優しい笑みを浮かべている。
「このリボンには秘密がある。持ち主の“本当の願い”を叶える力があるんだ。ただし、その願いが心からのものでなければならない。」
サクラはその言葉に胸が高鳴った。
母の話と同じだ。
サクラはリボンを購入し、家に帰ると早速髪に結んでみた。
鏡に映る自分の姿は、まるで見違えるように輝いて見えた。
その夜、サクラは夢を見た。
夢の中で、母が微笑んで立っていた。
母は紫のリボンを指さし、「そのリボンを信じなさい。本当の願いを心に問いかけなさい」と優しく語りかけた。
翌朝、サクラは考え込んだ。
自分の“本当の願い”とは何なのだろう。
母にもう一度会いたいのか。
それとも、母のように誰かを守る強さが欲しいのか。
リボンを結び直し、サクラは町の丘へと向かった。
そこは、母とよく訪れた思い出の場所だった。
丘の上から町を見下ろしながら、サクラは気づいた。
本当に望んでいることは、「母のように優しく強い人になり、誰かを支えられる存在になること」だった。
母が自分にリボンを結んでくれたように、自分も誰かに希望を結んであげたい——それがサクラの心からの願いだった。
その瞬間、リボンがふわりと光を放った。
驚いたサクラが触れると、リボンは柔らかな温もりを帯びていた。
まるで母がそっと抱きしめてくれているかのように。
その日から、サクラの周りには自然と人が集まるようになった。
困っている人には手を差し伸べ、悲しんでいる人には寄り添った。
サクラの髪に結ばれた紫のリボンは、彼女の優しさと強さの象徴となった。
時が経ち、サクラは町の子供たちにリボンを結んであげることを楽しみにするようになった。
カラフルなリボンに込めたのは、未来への希望と小さな約束——「君もきっと、自分の願いを見つけられるよ」というメッセージだった。
サクラの物語は、町に生きる人々の心にやさしく結ばれ、ずっと語り継がれていった。