じゃがいもと小さな約束

食べ物

ある町に、じゃがいもが大好きな青年がいた。
名前は圭介(けいすけ)。

圭介のじゃがいも愛は並々ならぬもので、朝食はじゃがバター、昼食はフライドポテト、夕食は肉じゃがやポテトグラタンと、ほぼ毎食じゃがいもを食べていた。
そんな彼の夢は、「最高のじゃがいも料理を作ること」。
それを実現するために、町の小さな食堂「ポテトハウス」を営んでいた。

店では、ポテトサラダ、マッシュポテト、コロッケ、ポテトスープなど、ありとあらゆるじゃがいも料理を提供していた。
中でも人気だったのは、「極上のポテトフライ」。
外はカリッと、中はホクホク、しかもほんのり甘みが感じられるこのポテトフライを求めて、町の人々は毎日列を作っていた。

そんな圭介のもとに、ある日、一人の少女が訪れた。
彼女の名前は美咲(みさき)。年の頃は小学校低学年くらい。
大きなリュックを背負い、圭介の前で立ち尽くしていた。

「……おじさん、おいしいポテト、ください」

その言葉に、圭介は笑顔でうなずき、揚げたてのポテトフライを差し出した。

「はい、お嬢ちゃん。アツアツだから気をつけてね」

美咲は一口食べると、ぱっと顔を輝かせた。

「おいしい! こんなポテト、はじめて食べた!」

その喜ぶ姿に、圭介の心も温かくなった。
それから美咲は毎日のように店を訪れるようになり、じゃがいも料理を注文しては笑顔を見せるようになった。

しかし、しばらくすると、美咲が店に来なくなった。
不思議に思った圭介は、常連客から彼女の事情を聞いた。

「美咲ちゃん、最近お母さんの仕事の都合で町を出ることになったみたいだよ」

圭介は思わず、厨房の包丁を持つ手を止めた。

それから数日後、店を開けると、美咲がいた。

「おじさん、今日が最後だから、ポテトフライ食べにきたの」

圭介は美咲のために、いつもより丁寧に、心を込めてポテトフライを揚げた。

「ありがとう、美咲ちゃん。これ、最高のポテトフライだから、しっかり味わって食べてね」

美咲は涙ぐみながら、ポテトを食べた。

「いつかまた、ここに戻ってくるね。そのときも、おじさんのポテトフライ、食べてもいい?」

「もちろんさ。そのときは、もっとおいしいポテトフライを作れるように頑張るよ」

そう言って笑う圭介の顔を、美咲はしっかりと目に焼き付けた。

それから数年が経った。
圭介の店は相変わらず繁盛し、じゃがいも料理を作り続けていた。

ある日、店の扉が開き、見覚えのある少女が立っていた。
少し成長した美咲だった。

「おじさん、ただいま!」

その言葉に、圭介は満面の笑みを浮かべた。

「おかえり! 最高のポテトフライ、用意してるよ!」

じゃがいもが結んだ、小さな絆。
それは時間を超えても変わらぬ、温かい味を持ち続けていた。