小さな町の端にある、白い壁の小さな家に、ひとりの少女が住んでいた。
名前は 柚葉(ゆずは)。
柚葉は毎日、日が沈むころに自分の机に向かい、ノートを開いては色鉛筆を手に取る。
彼女の宝物、それは 絵日記 だった。
絵日記には、その日に見たもの、感じたことがびっしりと描かれていた。
桜の木の下で遊んだ日には、ピンクの花びらが舞う様子を。
雨の日には、窓に流れる水滴を。
時には、自分の想像の世界を描くこともあった。
ある日のこと、柚葉は 不思議な夢 を見た。
夢の中で彼女は、自分の絵日記の中に入っていた。
昨日描いたばかりの 湖のほとり に立っている。
湖の水面には、橙色の夕焼けが映り込み、波紋がゆっくりと広がっていた。
驚いたことに、そこには彼女が描いた 青い鳥 もいた。
「ようこそ、柚葉。」
鳥が 人の言葉 を話したのだ。
「君がこの世界を作ったんだよ。さあ、一緒に冒険しよう!」
柚葉は驚きつつも、わくわくしながら鳥についていくことにした。
最初に訪れたのは、お菓子の森 だった。
木の枝にはチョコレートが実り、草むらにはカラフルなマカロンが咲いている。
「私、こんな絵を描いたっけ?」
首をかしげる柚葉に、青い鳥が笑った。
「君の想像の世界はどんどん広がっているんだよ。」
柚葉は夢中になって森を駆け回った。
次にたどり着いたのは、空に浮かぶ 星の図書館。
本のページをめくると、過去の日記の思い出が映し出される。
幼稚園のころの落書き、初めて海を見たときの感動、家族で過ごした楽しい時間……。
「これは全部、私の大切な思い出。」
柚葉は本を抱きしめた。
しかし、そのとき――
突然、あたりが暗くなった。
「気をつけて!」青い鳥が叫んだ。
「忘れ去られたページがやってくる!」
闇の中から、ぼろぼろのページが風に乗って舞い上がる。
それは柚葉が 昔、悲しいことがあった日に書いた日記 だった。
友達と喧嘩をした日、失敗して落ち込んだ日、寂しさを感じた夜……。
「もう、見たくない……」
柚葉は目をそらした。
でも、そのとき気づいた。
悲しい記憶の隣には、必ず 誰かが励ましてくれた言葉 が書かれていた。
「大丈夫、また仲直りできるよ。」
「失敗しても、次がある。」
「君はひとりじゃない。」
それを思い出すと、涙がこぼれた。
「このページも、大切なものなんだね。」
柚葉がそっと手を伸ばすと、ページたちは光に包まれ、新しい日記の一部となっていった。
目を覚ますと、柚葉は自分の部屋にいた。
「夢……だったのかな?」
絵日記を開くと、昨日までなかった 星の図書館の絵 が描かれていた。
柚葉は 新しいページ を開き、青い鳥の絵を描いた。
「これからも、たくさんの思い出を描いていこう。」
その日から、彼女の絵日記には、夢の中で見た世界が少しずつ増えていった。