冬の寒さが徐々に街を包み込み、商店街の店先が華やかなクリスマス飾りで彩られる頃、里奈(りな)は小さな部屋で静かに手を動かしていた。
彼女の指先には、木の小枝やフェルト、古いボタンや色あせたリボンが絡みつき、それが彼女の手で魔法のように形を変え、オリジナルのオーナメントになっていく。
里奈は幼い頃から手作りが好きだった。
母がくれた古い裁縫箱がその原点だ。
裁縫箱には様々な色の糸やボタン、布の切れ端が詰まっていて、里奈にとってそれは宝物だった。
しかし、彼女がオーナメント作りを始めたのは、5年前に亡くなった祖母の影響だった。
祖母は生前、毎年クリスマスになると家族のためにオーナメントを手作りしていた。
彼女が作るオーナメントには、家族への愛情が一つ一つ込められており、それを飾るツリーは特別な輝きを放っていた。
祖母が他界した年、家族はクリスマスツリーを飾る気になれなかった。
しかし、里奈はふと思い立ち、祖母が残した手芸道具を手に取った。
そして、その年、初めて自分の手でオーナメントを作ったのだ。
それ以来、毎年クリスマスが近づくと、里奈は手作りオーナメントを作ることを自分の使命のように感じていた。
今年もまた、彼女の手元には様々な素材が集まっていた。
近所の森で拾った松ぼっくりや小枝、友人から譲り受けたビーズや布切れ。
彼女はそれらを見ながら、どのように形にするかを考える時間を何より楽しんでいた。
ある日、里奈が作業をしていると、近所に住む少年・翔太が窓越しに興味深そうに彼女を見ているのに気づいた。
翔太は、少し恥ずかしそうに言った。
「それ、何を作ってるの?」
「オーナメントだよ。クリスマスツリーに飾るもの。」
「へえ、すごいね。僕も作ってみたい!」
翔太のその言葉に、里奈は笑顔でうなずいた。
「じゃあ、一緒にやってみる?」
その日から、翔太は放課後になると里奈の家にやってきて、一緒にオーナメント作りを楽しむようになった。
最初は不器用だった翔太も、里奈のアドバイスを受けながら少しずつ上達していった。
そして、翔太が自分で作った最初のオーナメントを手にしたとき、彼の顔は誇らしげに輝いていた。
「これ、僕のお母さんにプレゼントするんだ。」
翔太の言葉に、里奈は胸が温かくなるのを感じた。
手作りの良さは、そこに込められた想いが伝わることだと改めて思った。
クリスマス当日、里奈と翔太が一緒に作ったオーナメントは、町の小さなクリスマスマーケットで展示されることになった。
ツリーには色とりどりのオーナメントが飾られ、それを見た人々は「素敵だね」と声を上げた。
翔太のお母さんもその場に来ていて、息子が作ったオーナメントを見て感動の涙を浮かべていた。
それを見た翔太は少し照れくさそうにしながらも、満足げに微笑んでいた。
その夜、里奈は自分の部屋で一人、小さなツリーを飾りながら思った。
手作りのオーナメントには、不思議な力がある。
それは、人と人をつなぎ、幸せな気持ちを広げる力だと。
そして彼女は来年もまた、新しいオーナメントを作り続けるだろうと心に決めた。
外では雪が静かに降り積もり、彼女の部屋の窓越しに小さなツリーが温かな光を放っていた。