マサルは大学時代、生物学を専攻していた。
彼がゴリラに興味を持ったのは、ドキュメンタリー番組で見た一匹のシルバーバック(成熟したオスゴリラ)の姿がきっかけだった。
そのゴリラの優しい目と家族を守る堂々とした姿に、彼は心を奪われた。
以来、絶滅の危機に瀕するゴリラたちを守りたいという思いが彼の人生の中心になった。
卒業後、マサルはアフリカ中央部のコンゴ盆地にある国立公園で働き始めた。
この地域は、絶滅危惧種であるマウンテンゴリラの生息地として知られているが、密猟や森林伐採の問題が深刻だった。
地元の人々は生計を立てるために森林を切り開き、密猟者たちはゴリラの毛皮や身体の一部を売買するために狩りを続けていた。
マサルの主な仕事は、ゴリラの生息地を監視し、密猟者から守ることだった。
しかし、それだけではゴリラを救うことはできないと気づいた。
彼は地元の人々と協力し、生計手段を提供することで森林破壊を減らす取り組みを始めた。
蜂蜜作りやエコツーリズムの導入、農業技術の指導などを通じて、住民の生活を改善しながら自然保護の重要性を伝えた。
ある日、パトロール中にマサルは罠にかかった幼いゴリラを発見した。
その小さな体は傷だらけで、目には恐怖が宿っていた。
マサルは慎重に罠を外し、ゴリラを抱き上げた。
その姿を見たとき、彼の胸にあふれたのは、怒りでも悲しみでもなく、強い決意だった。
「この子たちの未来を守るために、もっとできることがあるはずだ。」
その後、マサルは保護活動の資金を集めるため、世界中を講演して回った。
彼の情熱的なスピーチは、多くの人々の心を動かした。
ゴリラの危機的な状況と、彼らの生態系全体への貢献について語るマサルの姿は、多くの人々にインスピレーションを与えた。
10年後、マサルの努力は実を結び、保護区域内のゴリラの数は少しずつ増えてきた。
彼が救った幼いゴリラも、今では立派な群れのリーダーになっていた。
その姿を見たマサルは、これまでの苦労が報われたような気がした。
「ゴリラを守ることは、自然を守ること。そして、私たち自身の未来を守ることでもあるんだ。」
マサルはそうつぶやきながら、再びジャングルの奥へと歩き出した。