青い空に白い雲が浮かび、川面が太陽の光を反射してきらめいていた。
その川沿いに一人の男が座っていた。名前は坂井健太。
彼は昔から川の流れを見るのが好きだった。流れる水は常に変化し、決して同じ形を保たない。
それが彼にとって、人生の真理を象徴しているように思えた。
坂井は都会の喧騒から逃れるため、この小さな田舎町に引っ越してきた。
仕事を辞め、静かな暮らしを求めた結果だった。
この町には、大きな川がゆったりと流れており、その川岸は彼のお気に入りの場所だった。
毎日のように、彼はお気に入りのベンチに腰を下ろし、川の流れに目を向けた。
ある日、彼がいつものように川を眺めていると、ふと川上から小さな舟が流れてくるのが見えた。
その舟には一人の少女が座っていた。彼女は白い帽子をかぶり、長い髪が風になびいている。
舟はゆっくりと坂井のいる場所に近づいてきた。
“こんにちは。”
坂井は自然と声をかけた。少女は彼を見て、にっこりと笑った。
“こんにちは。川の流れを見るのが好きなんですか？”
“ええ、そうです。君は？”
“私も好きです。この川はおばあちゃんの家に来るときにいつも見るんです。”
坂井と少女はそのまま会話を続けた。
彼女の名前は佐藤美咲といい、近くの町から祖母を訪ねてこの川に来ることが多いのだという。
坂井は彼女の話を聞きながら、久しぶりに心が温かくなるのを感じた。
その日から、美咲が川沿いに現れる日が増えた。
彼女は舟を岸に繋ぎ、坂井と一緒に川の流れを眺めながら、色々な話をした。
美咲の無邪気な笑顔や、彼女が語る未来の夢が、坂井に新しい活力を与えてくれた。
だが、美咲が来なくなる日が突然訪れた。
彼女の姿を見なくなってから数週間が過ぎた頃、坂井は彼女のことが気になり、川の上流にある町を訪ねることにした。
そこで彼は、彼女の祖母が最近亡くなり、美咲は家族とともに遠くの町に引っ越したと聞かされた。
悲しみと寂しさを感じながらも、坂井は川に戻った。
彼にとって、この川は変わらずに流れ続ける安心感の象徴だった。
そして、美咲との思い出も、この川と共に永遠に流れ続けるものだと感じた。
ある日、彼は川辺で一通の手紙を見つけた。
それは美咲からの手紙だった。
そこにはこう書かれていた。
“健太さんへ
突然いなくなってごめんなさい。
この川で過ごした時間は、私にとってとても特別なものでした。
おばあちゃんのことがあったけれど、私は元気です。
川を見ると、いつも健太さんのことを思い出します。
またいつか、この川でお会いできる日を楽しみにしています。
美咲より”
坂井は手紙を握りしめ、静かに微笑んだ。
そして、また川の流れに目を向けた。
川は相変わらず美しく、力強く流れていた。
彼にとって、それは新しい希望と再会の約束を象徴していた。
