アヒルのワルツ

動物

湖のほとりに住むアヒルのミナは、静かな日々を送っていました。
彼女は少し変わったアヒルで、他の仲間たちと一緒に泳いだり羽を乾かしたりするのが苦手でした。
理由は簡単です。ミナは踊ることが大好きだったのです。

ミナが踊りを始めたのは偶然でした。
ある日の夕方、湖に映る夕日の光が水面に波紋を広げ、それがまるで音楽に合わせた動きのように見えたのです。
その美しさに心を奪われたミナは、自分の足をそっと動かしてみました。
最初はぎこちなかったものの、何度も繰り返すうちに、羽根を広げてリズムに乗る自分に気づきました。
それは、彼女だけの小さなワルツでした。

しかし、他のアヒルたちはミナの踊りを見て笑いました。
「アヒルは踊らないんだよ。泳ぐのが私たちの仕事なんだから」「なんて変な動きなんだ!」と言われ、ミナは次第に仲間たちと距離を置くようになりました。
それでも、彼女は踊ることをやめることはありませんでした。
踊るたびに心が軽くなり、自分らしくいられる気がしたからです。

ある日、ミナは湖の奥にある森へ出かけました。
そこにはほとんど誰も近づかない、小さな静かな池がありました。
ミナはその池を「秘密のステージ」と名付け、毎晩そこで踊るようになりました。
夜になると月が池を照らし、水面がまるでステージライトのように輝きます。
その光の中で踊るミナは、どんなアヒルよりも幸せそうでした。

そんなある晩、森の奥から小さな拍手が聞こえてきました。
驚いて振り返ると、そこには一羽のフクロウが木の枝に止まっていました。
「素晴らしい踊りだね。君のようなアヒルは初めて見たよ」とフクロウが言いました。

ミナは恥ずかしそうに答えました。
「ありがとう。でも、仲間たちは私の踊りを笑うの。アヒルは踊るものじゃないって。」

フクロウは微笑んで言いました。
「誰がそんなことを決めたんだい?森にはたくさんの動物がいるけど、みんな自分のやりたいことを大切にしているよ。君の踊りも、きっと誰かを幸せにする力がある。」

その言葉に勇気をもらったミナは、次の日からもっと自由に踊るようになりました。
そして、フクロウは毎晩彼女のダンスを見に来るようになり、時には森の動物たちも集まって拍手を送るようになりました。

そんな中、湖に大雨が降り注ぐ日がありました。
川の水が増して湖が溢れ、アヒルたちの住処が危険にさらされました。
湖の仲間たちは助けを求めて声を上げますが、誰もどうすればいいかわかりませんでした。
その時、ミナは湖の中央で踊り始めました。
彼女の動きはとても優雅で、見ているだけで気持ちが落ち着くものでした。
その姿を見た仲間たちは恐怖を忘れ、一緒に力を合わせて新しい場所に避難する決意を固めました。

嵐が過ぎ去った後、アヒルたちはミナに感謝しました。
「君の踊りのおかげで、私たちはパニックにならずに済んだよ。本当にありがとう」と言われ、ミナは初めて自分の踊りが誰かの役に立ったことを知りました。

それからというもの、ミナのワルツは湖の名物になり、仲間たちも一緒に踊ることを楽しむようになりました。
ミナはもう孤独ではありません。
彼女の踊りは湖中に広がり、みんなを幸せにする「アヒルのワルツ」として知られるようになったのです。