遥か遠い昔、全てが氷に覆われた世界があった。
その世界は「エルガリア」と呼ばれ、人々は寒冷な環境に適応した暮らしを営んでいた。
氷の城、氷の森、そして氷の海が広がるこの地には、雪と氷が作り出す美しい景観が広がっていた。
しかし、エルガリアには一つの伝説が語り継がれていた。
それは、「永遠の炎」の物語である。
この炎は、氷の世界を変える力を持つとされていた。
誰もその存在を確認した者はいなかったが、古い書物にはこう記されている。
“永遠の炎は、氷の世界の中心にある『霜の心臓』の奥深くに眠る。
その炎を見つける者は、この凍てついた世界を春の楽園へと変えることができるだろう。”
この伝説を信じる者は少なかったが、一人の若者がその夢を追い求めていた。
彼の名はカイ。彼は幼い頃に両親を失い、厳しい環境の中でたくましく生きてきた。
カイはいつも空を見上げながら、「いつかこの世界が暖かくなればいい」と願っていた。
ある日、カイは偶然古い地図を見つけた。
それは彼の住む村の長老の家に隠されていたもので、「霜の心臓」への道が描かれていた。
地図には多くの危険が記されていたが、カイの心は冒険への期待でいっぱいだった。
彼は長老に地図の由来を尋ねた。
「その地図か…。若い頃に手に入れたものだが、誰もその道を通り抜けた者はいない。危険すぎる。」
長老の言葉にもかかわらず、カイは決意を固めた。
自分の夢を追い求めることを諦めたくなかったのだ。
旅の準備を整えたカイは、村を出発した。
最初の目的地は「氷の迷宮」と呼ばれる場所だった。
そこは視界を遮る雪嵐と、滑りやすい氷床が行く手を阻む危険な地域だった。
カイは雪狼に襲われそうになりながらも、持ち前の機転と勇気で乗り越えた。
氷の迷宮を抜けた先には、「凍てつく谷」が待ち構えていた。
この谷では氷の巨人が住んでおり、侵入者を許さないという。
カイが谷を進むと、足元が震え、大きな影が目の前に立ちふさがった。
それは氷の巨人だった。
巨人は低い声で言った。
「ここを通りたければ、我に答えよ。この氷の世界が抱える最も大きな痛みとは何だ?」
カイは迷った。
世界の痛みとは何か?彼は思い出した。
幼い頃に見た母親の涙、冷たさに震える子供たちの姿。
カイは答えた。
「それは、人々が寒さの中で希望を失うことだ。」
巨人は一瞬の静寂の後、ゆっくりと道を開けた。
「賢い答えだ。進むがよい。」
カイはついに「霜の心臓」の入口にたどり着いた。
その場所は不思議な静けさに包まれており、薄い青い光が辺りを照らしていた。
彼が中に入ると、巨大な氷の結晶が目に飛び込んできた。
その中心には小さな炎が揺らめいていた。
それが「永遠の炎」だった。
カイは慎重に近づき、その炎を手に取ろうとした。
その瞬間、炎がカイに語りかけてきた。
「我を求める者よ、その理由を告げよ。」
カイは答えた。
「この世界を変えたい。寒さに苦しむ人々を救いたい。」
炎は一瞬揺らめいた後、静かに答えた。
「ならば、我が力を与えよう。ただし、その代償はお前自身だ。」
カイは一瞬ためらったが、世界を救うために自分を犠牲にする覚悟を決めた。
彼が炎を手に取ると、暖かな光が広がり、氷の世界を包み込んでいった。
その後、エルガリアは徐々に氷が溶け、新たな命が芽吹く世界へと変わっていった。
しかし、カイの姿を見る者はいなかった。
人々は彼の犠牲を知り、彼を「エルガリアの英雄」として語り継いだ。
そして、「永遠の炎」は再び静かに眠りについた。
新たな英雄が現れるその日まで。