冬の初め、深い雪に覆われた山々の中に、古びた山小屋がひっそりとたたずんでいた。
この小屋は、昔から登山者たちの避難場所として知られていたが、その冬、誰も知らない秘密を抱えていた。
主人公の翔太は、友人たちと雪山登山を計画していた。
登山歴はそこそこ長いものの、雪山は未経験で、少し不安を抱きながらの挑戦だった。
予定通り山の入り口に到着した一行だったが、予期せぬ吹雪が彼らの行く手を阻んだ。
風は徐々に強くなり、視界はほとんど白一色となり、予定していたルートを外れて彷徨うことになった。
途方に暮れかけたとき、小さな山小屋が視界に現れた。
それはまるで、雪の中から浮かび上がった幻のようだった。
翔太たちは急いでその小屋に駆け込み、扉を押し開けた。
中は思ったよりも暖かく、薪ストーブには微かに火の残りがあった。
「こんなところに誰か住んでいるのか?」と友人の一人が呟いたが、周囲には人の気配はなかった。
小屋は簡素だが清潔で、壁には古びた登山用具がかけられていた。
一同はとりあえずストーブで身体を温め、嵐が収まるのを待つことにした。
翌朝、吹雪はまだ止む気配を見せなかった。
時間を持て余した翔太たちは、小屋の中を探検することにした。
部屋の隅に置かれた古い木箱の中を漁っていると、埃をかぶった日記帳を見つけた。
表紙には「大谷綾乃の日記」と書かれていた。
翔太はその名前に覚えがあった。彼女は10年前、この山で行方不明になった登山家だったのだ。
日記をめくると、彼女がこの山に挑む意気込みと、未知のルートを発見した喜びが記されていた。
しかし、日記の後半には不穏な記述が増えていく。
「奥地で奇妙な光を見た」「その光に引き寄せられているような気がする」といった言葉が続いていた。
そして、最後のページには「もしこの日記を見つけた人がいるなら、その光を解き明かしてほしい」というメッセージが残されていた。
翔太たちは興味を掻き立てられ、日記に描かれたルートをたどってみることにした。
吹雪が小康状態になるのを待って小屋を出発すると、記されたスケッチを頼りに進んだ。
道中、雪に埋もれた古い道標や凍りついた池を越え、彼らは日記に記された「光の場所」へと近づいていった。
その場所は険しい崖の下に広がる谷間だった。
そこには雪に覆われた古代の遺跡のような構造物があった。
その中心に、氷の中から青白い光が脈打つように輝いていた。
その光は不気味ながらも美しく、どこか人の心を引き寄せる力を持っていた。
翔太たちは慎重に遺跡に足を踏み入れた。
周囲は息をのむほど静かで、風の音すら聞こえなかった。
光に近づくにつれ、彼らは微かな声を聞いた。
それは綾乃の声のようだった。
「助けて」という声が氷の中から響いているように感じた。
翔太たちは何とかその光を解放しようと試みたが、氷はどんな手段でも溶けなかった。
やがて光が激しく輝き、周囲の雪が一瞬にして溶けた。
その瞬間、翔太は綾乃の姿を一瞬だけ目にした。
彼女は微笑みながら「ありがとう」と口パクをし、そのまま光と共に消えていった。
気がつくと、翔太たちは小屋の前に戻っていた。
遺跡にいた記憶ははっきりしているが、どうやって戻ったのかは分からない。
不思議なことに、綾乃の日記もどこかへ消えてしまっていた。
何が現実で何が幻だったのか、誰も確信を持てなかった。
その後、翔太たちは無事に山を下りたが、翔太はあの光景を忘れることができなかった。
綾乃が目指したもの、そして遺跡の光が持つ意味。雪山の奥には、まだ人々が知らない秘密が眠っているのだろう。
翔太は再びその謎に挑むことを決意し、雪山への挑戦を続けている。