それは、私たちの学校で密かに語り継がれる都市伝説だった。
3年生だけが使うという旧校舎の一部屋、通称「第七教室」。
その部屋に入ると、現実とは異なる世界に迷い込むという噂があった。
私はその話をまったく信じていなかったが、興味本位で友人の真希と一緒に確かめに行くことにした。
授業の終わり、誰もいない放課後の校舎を歩き回り、やがて第七教室の前にたどり着いた。
扉には「使用禁止」の張り紙が貼られていたが、それが逆に私たちを引き寄せた。
「大丈夫だって。何も起きないよ。」と笑いながら扉を押すと、意外にも簡単に開いた。
中は古びた机と椅子が乱雑に置かれた、ただの教室だった。
ホッとしながら、真希と一緒に中を見回していると、突然、教室の窓の外が真っ白になった。
「えっ、何これ?」
真希が驚きの声を上げた。
さっきまで見えていた校庭や隣の校舎が消え、代わりに無限に広がる霧のような景色だけが広がっていた。
驚きと恐怖で心臓が跳ね上がるのを感じながら、教室の扉を開けようとしたが、びくともしない。
さらに周りを見渡すと、教室の時計の針が狂ったように高速で回り始めていた。
「何が起きてるの?」
真希は怯えた顔で私を見つめた。私も答えが分からない。
ただ、教室全体が徐々に奇妙な雰囲気に包まれていくのを感じた。
机の上には見覚えのないノートが開かれており、その中に書かれた文字は、私たちが読めない不思議な言語だった。
そのとき、突然、ノートの文字が動き出し、ページ全体を埋め尽くすように黒いインクが広がった。
教室の床や壁にもそのインクが染み出していく。
「ここから出ないと!」私は叫び、窓に駆け寄ったが、外の霧はますます濃くなるばかりだった。
すると、不意に背後から声が聞こえた。
「お帰りなさい。」
振り向くと、教室の中央に立つ見知らぬ少女がいた。
白いワンピースを着たその少女は、不気味なほどに澄んだ瞳で私たちを見つめていた。
「だ、誰?」
真希が震える声で尋ねると、少女は微笑んだ。
「ここはあなたたちの来るべき場所。
でも、まだ少し早いのかもしれない。」
「来るべき場所?意味が分からない!」
私は混乱しながら叫んだが、少女は首をかしげるだけだった。
「まあ、またお会いしましょう。」
その一言とともに、教室全体が揺れ始め、私たちは強烈な光に包まれた。
次に目を開けると、私たちは元の校舎の廊下に倒れていた。
時計を見ると、たったの5分しか経っていなかった。
しかし、あの教室で見たこと、聞いたことは、夢や幻覚ではなかった。
その日以来、私たちは第七教室に近づかなくなった。
しかし、ふとした瞬間、あの少女の声が頭の中に蘇ることがある。
彼女が言った「来るべき場所」とは一体何だったのか。
あの教室は、私たちの未来のどこかにつながっているのだろうか――