バタースコッチの約束

食べ物

ユウタは小学校の3年生で、ちょっと内気な性格の少年だった。
彼は自分の趣味や好みをあまり人に話さないタイプだったけれど、バタースコッチだけは別だった。
バタースコッチキャンディーが大好きで、ポケットにはいつもいくつかのバタースコッチを入れていた。
母親が買ってきてくれることもあれば、自分のお小遣いでこっそり買うこともある。
彼はその甘くてほろ苦い味がたまらなく好きで、口に含むと心が落ち着くのだった。

ユウタがバタースコッチを好きになったのは、おばあちゃんの影響だった。
おばあちゃんは優しく、いつもユウタを気遣ってくれる大切な存在で、彼が赤ちゃんの頃からよく面倒を見てくれていた。
幼い頃、おばあちゃんが遊びに来ると必ず手土産として持ってきてくれるのがバタースコッチキャンディーの詰め合わせだった。
ユウタは小さな手でそのキャンディーをつかんで、甘さを堪能しながらおばあちゃんのひざに寄り添っていた。
その思い出があるから、バタースコッチを食べるたびにユウタは優しい気持ちに包まれるのだ。

しかしある日、おばあちゃんが倒れて入院することになった。
大きな病院の白いベッドで眠るおばあちゃんを見たユウタは、胸が締め付けられるような気持ちになった。
元気な時と変わらずに笑顔で話しかけてくれるおばあちゃんだったが、その笑顔の奥に疲れが見え隠れしていることに気づいてしまった。

「おばあちゃん、また一緒にバタースコッチを食べようね」とユウタは言ったが、声は震えていた。
おばあちゃんは笑って「もちろんよ、ユウタ。約束よ」と優しく答えてくれた。

それからユウタは毎日のように病院へ通った。
学校が終わるとランドセルを背負ったまま、おばあちゃんの病室へ向かう。
彼はバタースコッチの袋を持って行き、おばあちゃんと一緒に食べようとするのだが、彼女の体調が悪い日はおばあちゃんはキャンディーを口にできないこともあった。
そんな時ユウタは一人でキャンディーを口に含み、「早く良くなってね」と心の中で祈るのだった。

おばあちゃんがいないと寂しい気持ちになる日が続いたが、そんなある日、おばあちゃんの病室に向かう途中でユウタはあることを思いついた。
学校の友達にバタースコッチを勧めてみたらどうだろうか。
バタースコッチはおばあちゃんとの思い出でいっぱいだから、誰かと分かち合うのは少し勇気が要ることだった。
しかし、ユウタは一人で悲しむよりも、好きなものを通して少しでも楽しい気持ちを共有したかったのだ。

次の日の休み時間、ユウタは勇気を出して隣の席のショウタにバタースコッチを差し出した。
「これ、僕の好きなキャンディーなんだ。食べてみて」

ショウタは少し不思議そうな顔をしたが、キャンディーを手に取り、口に含んだ。
最初は驚いた表情だったが、すぐににっこりと笑った。
「これ、甘くておいしいね!ユウタのおすすめなら間違いないや」

その日から、ユウタは少しずつ友達にバタースコッチを分けるようになった。
休み時間にはいつも数人が彼のまわりに集まり、バタースコッチを一緒に味わう時間が自然と生まれた。
ユウタの好きなものが友達に広がり、バタースコッチを通して新しい絆が生まれていったのだ。

そして、おばあちゃんが少しずつ回復し、退院の日が近づいてきた。
ユウタはその報告を聞いて心の底から嬉しかった。
退院の日、ユウタは病院の出口でおばあちゃんを待っていた。
そして、無事におばあちゃんが出てきた瞬間、彼はポケットからバタースコッチの袋を取り出して、にこにこしながらおばあちゃんに渡した。
「約束通りだよ、おばあちゃん!」

おばあちゃんもまたにっこりと笑い、キャンディーを口に含んだ。
その甘くて懐かしい味に包まれながら、二人は手を取り合って家路についた。
ユウタは思った。
バタースコッチはただのキャンディーじゃなくて、誰かと心をつなぐ魔法みたいな存在なのかもしれないと。

その後もユウタは友達にバタースコッチを分ける日々を続け、バタースコッチを通じてどんどん友達との絆が深まっていった。