森の中の小さな村に、魔法のような力を持つと噂される「サイダーの泉」がありました。
そこに湧き出るサイダーは、普通のものとは違い、口に含むと瞬く間に体に活力がみなぎり、心の奥底にある願いや感情がはっきりと浮かび上がってくるという不思議な力を持っていたのです。
このサイダーの泉は、長い間、村の者たちから大切に守られてきました。
なぜなら、そこに住む者たちはそのサイダーが奇跡を起こす力を秘めていることを知っていたからです。
しかし、泉に行くにはいくつかの条件がありました。
それは「心が清らかであること」と「真の願いを持っていること」。
この条件を満たさなければ、泉の力に触れることはできないと言われていました。
村には、レイナという若い少女が住んでいました。
レイナは心優しく、誰にでも親切な少女でしたが、幼い頃から病弱で、思うように外を駆け回ることができませんでした。
彼女の夢は、自由に走り回り、美しい自然を感じながら日々を過ごすことでした。
彼女の両親もまた、その願いをかなえてあげたいと心から思っていましたが、どうすることもできずにいました。
ある日、レイナのもとに、サイダーの泉の噂を耳にした旅人が訪れました。
彼は「その泉のサイダーは、どんな願いも叶えることができるのだよ」と語り、レイナの両親は最後の希望を託し、レイナを泉へ導くことを決めました。
旅は険しいものでしたが、両親と村人たちが協力し、なんとかレイナを泉の近くまで運ぶことができました。
泉のほとりにたどり着いたレイナは、その透明で美しいサイダーが湧き出る光景に目を奪われました。
泉は静かに煌めき、冷たい空気に包まれていました。
レイナはそっと泉に手を伸ばし、一杯のサイダーを口に含みました。
その瞬間、彼女の胸の中に秘めていた思いが広がり、まるで花が咲くように鮮やかになりました。
「私は自由に走りたい」という強い願いが彼女の心を満たし、彼女の体はまるで軽くなったように感じました。
すると、レイナの周りに淡い光が広がり、彼女はその場で立ち上がることができるようになっていたのです。
彼女の両親は涙を流しながら、その奇跡の瞬間を見守りました。
レイナは初めての力強い一歩を踏み出し、次にもう一歩、そしてまたもう一歩と、ゆっくりと森の中を歩き始めました。
しかし、泉のサイダーの力にはひとつの条件がありました。
それは「与えられた奇跡は永遠ではない」ということです。
サイダーの効果はその人の心の清さや願いの強さに応じて一時的に発揮され、彼らが奇跡の力を正しく使う限りでのみ持続するのです。
数日間、レイナは自分の新たな力で村の中を自由に駆け巡り、喜びに満ちて過ごしました。
しかし、次第に力は薄れ、彼女は再び以前のように歩くこともままならなくなりました。
失望が押し寄せる中で、彼女はふと思いました。
「この力は、ただ自分のためだけに使うものではなかったのではないか」と。
そこでレイナは決意しました。
村のため、他の人々の幸せのために、彼女ができる限りのことをしようと。
彼女は村の人々に教えられたことを生かし、薬草を集めて薬を作り、病気やけがで困っている人々を助け始めました。
泉から受け取った力が一時的だったとしても、村人たちへの感謝の気持ちが、彼女を支え続けたのです。
年月が経ち、レイナのことは村の伝説として語り継がれました。
彼女が泉で得た「一時的な奇跡」は永遠ではなかったものの、彼女の思いやりと努力によって、多くの村人たちの心には「本当の奇跡」が芽生えたのです。
そして、その「サイダーの泉」もまた、彼女の生涯を通じて村人たちが互いを思いやる心を育てるために、ひっそりと流れ続けました。
時折、サイダーの泉を訪れた村人たちはレイナのことを思い出し、「真の願いを持つ者にのみ泉は応える」と、今も語り継がれています。
泉に湧くサイダーは、もはや単なる飲み物ではなく、村人たちの心をつなぐ大切な存在となり、彼らにとっての「永遠の奇跡」として輝き続けているのです。
