小さな田舎町に暮らす中学生の明菜は、毎年のように暑さにうんざりしながらも、夏の楽しみを見つけようと友達と過ごす日々を送っていた。
今年も暑い日が続き、青い空には雲ひとつない。
しかし、天気予報が急に「ゲリラ豪雨に注意」という警告を発信したことで、町全体が少しざわめき始めた。
「ゲリラ豪雨って、急に降る激しい雨のことなんだって」と、友人の夏希が言った。
明菜もテレビで見た情報を思い出して頷いた。
真夏の突然の雨、強い雷鳴、短い時間で川が氾濫することもあるという。
しかし、二人は心のどこかでそんなことは自分たちの町には起きないと思っていた。
田舎の静かな風景の中で、そんな大災害が起きるなんて想像もできなかったのだ。
その日の午後、明菜たちは川沿いの道を散歩していた。
川は穏やかに流れ、蝉の声が響いていた。
ふと、空が暗くなり始めたことに気づいた明菜が、頭上を見上げた。
さっきまで晴れていた空が、いつの間にかどんよりとした雲に覆われている。
「ちょっと、なんか怪しいよね。これがゲリラ豪雨ってやつかな?」と、夏希が不安そうに言った。
二人は急いで家に戻ろうと走り出したが、その途端にポツポツと大粒の雨が降り始めた。
そして、まるでそれが合図だったかのように、猛烈な雨が一気に降り注いできたのだ。
「わっ、やばい!もうびしょ濡れだ!」明菜は雨に打たれながら叫んだ。
傘も持っていなかったため、二人は必死に木の下に避難した。
しかし、雨は止む気配を見せず、むしろその激しさを増していった。
雷鳴が響き渡り、暗くなった空に稲妻が何度も光る。
雨粒が勢いよく地面を叩き、近くの川も勢いを増して流れ始めた。
時間が経つにつれて、川の水位が目に見えて上がっているのが分かった。
川岸近くまで押し寄せる水が、ふたりの足元にまで迫りつつあった。
「明菜、これはやばいかも……早く避難しよう!」夏希が焦って言った。
明菜も恐怖心を感じつつ、二人でなんとか町の方へ戻ろうとする。
しかし、雨によって地面がぬかるみ、足元が滑りやすくなっていた。
転んでしまった夏希を助け起こしながら、二人は必死に歩みを進めた。
ようやく町の防災無線の声が聞こえてきた。
町は緊急避難指示を出し、全住民に指定の避難場所へ向かうよう促していた。
近くの公民館が避難所として開放され、明菜と夏希もそこへ急いだ。
公民館には、同じように避難してきた町の人々が集まっていた。
皆、不安そうに外を見つめている。窓越しに見える外の景色は、雨でかすんでいたが、その勢いはまだ衰えていなかった。
明菜は、窓の外を見つめながらふと思った。
この雨がいつかは止むと信じてはいるものの、その終わりがいつ来るのかは誰にもわからない。
数時間後、雨が次第に小降りになり、やがて止んだ。
避難所にいた人々は、ようやく帰宅の準備を始めたが、明菜と夏希はまだどこか緊張した様子だった。
家に戻る途中、町の様子を目の当たりにした二人は、その光景に言葉を失った。
川沿いの道は泥水で覆われ、倒木があちらこちらに転がっている。
明菜の家は無事だったが、近隣の家々は浸水被害を受けている場所もあり、町の人たちが片づけに追われていた。
帰宅後、明菜はふと、今回の出来事について考えた。
たった一日の出来事で、自然がどれほどの力を持っているかを目の当たりにしたのだ。
何もかもが当たり前だと思っていた日常が、わずか数時間で崩れてしまう。
その恐怖を体験したことで、彼女の心には自然への畏敬の念が芽生えた。
「もう二度と、あんな雨は来てほしくないな」と明菜は呟いた。
しかし、彼女はその言葉に込めた意味が、単に怖いというだけでなく、自然に対する敬意と、これからの生き方について深く考えるきっかけになったと気づいていた。