ある深夜、都内の地下鉄で奇妙な出来事が起こるという噂が広まりました。
この都市伝説の名前は「真夜中の地下鉄」と呼ばれ、誰もが恐れる奇怪な物語です。
物語は、終電を逃したある青年が不運にも駅のベンチで始発を待っているところから始まります。
その夜、彼は友人たちとの飲み会で終電を逃してしまい、タクシーで帰るにはお金が足りず、仕方なく駅のベンチで始発を待つことにしました。
夜も更け、周囲には人影もなく、無機質な蛍光灯の光がベンチや階段を照らしているだけでした。
時計の針は午前1時55分を指していました。
終電もとっくに終わり、駅には人気がないはずでした。
しかし、突然、彼の耳に微かな音が聞こえます。
地下鉄の線路から「ゴトン、ゴトン…」と聞き慣れた車輪の音が響いてくるのです。
最初は、整備員の点検用車両が通っているのだろうと気にしませんでしたが、その音は次第に近づき、まるで一編成の電車が接近してくるような錯覚に陥ります。
ふと見ると、真夜中のはずのプラットフォームに、黒い塗装の不気味な電車が音もなく滑り込んでくるのが見えました。
車両はどこか古めかしく、昭和の時代に走っていたようなデザインでしたが、見たことのない型で、異様な存在感を放っています。
電車は停車し、目の前のドアがゆっくりと開きました。
車内は薄暗く、ところどころに白熱灯の明かりが灯っているだけで、人の気配がありません。
青年は恐怖を感じつつも、妙な好奇心に駆られ、電車の中へ一歩踏み入れました。
ドアが自動で閉まると、電車は音もなく再び動き出し、駅を出発しました。
車内には、ぼんやりとした光に照らされた古い座席が並び、全体にかすかにカビ臭い匂いが漂っています。
青年は窓の外に広がる暗闇をじっと見つめましたが、外の景色は不気味なほどに真っ暗で、地上へ上がる気配がありません。
ふと、彼の視界の端に人影が映りました。
反射的に顔を向けると、そこには乗客らしき人が座っていました。
しかし、よく見るとその人の顔はどこか歪んでおり、ぼやけているのです。
まるで顔の部分がぐにゃりと溶けてしまったかのように形を失い、目や鼻、口の輪郭が曖昧になっていました。
青年はゾッとして視線をそらそうとしましたが、その奇怪な顔が頭から離れません。
すると、その「人影」がゆっくりとこちらに振り向き、目が合った瞬間、心の中に「あなたもここにいるべきだ」という声が響きました。
恐怖で身動きが取れないまま、彼はただ目を閉じて声が消えるのを祈るしかありませんでした。
気がつくと、電車はどこかの駅に到着していました。
次の瞬間、無我夢中で電車を飛び出した青年は、すぐに駅員に駆け寄り「さっきの電車は何だったんですか!」と息を荒げながら尋ねました。
駅員は不思議そうな顔をして、「電車はもう動いていませんよ。終電は1時間以上前に終わっています。あなた、一体どこから来たんですか?」と問い返しました。
青年は振り返り、乗っていた電車を確認しようとしましたが、そこにはただ静まり返った線路があるだけで、あの不気味な黒い電車の姿は消え失せていました。
その後、彼は駅を後にしましたが、後日、その路線で「消えた電車に乗ってしまった」という都市伝説の存在を知ることになります。
その伝説によると、真夜中に運行するその電車に乗ってしまった人は、「消えた電車の乗客」として永遠に彷徨うことになるといいます。