ある静かな村に住む太郎という青年がいました。
太郎は幼い頃から動物が大好きで、特に小さな動物を可愛がるのが得意でした。
太郎の家は農村にあり、畑を営みながら自然に囲まれて生活していました。
そんな太郎がある日、村の近くで小さな子ヤギを見つけたのです。
その子ヤギは、生まれて間もないようで体も小さく、ほかのヤギたちとは少し違っていました。
ひどく痩せ細っており、足取りも頼りなげです。
太郎はその子ヤギが家畜として育つには難しいだろうと感じ、自分が世話をしてみたいと思いました。
「この子が元気に育つように、精一杯の愛情を注いでみよう」と、太郎は決心しました。
太郎は家に戻り、父や母にその子ヤギを育てる許しを求めました。
最初、父は少し難色を示しました。
「家にはすでに家畜もいるし、仕事も忙しい。お前だけで本当に世話ができるのか?」と心配していたのです。
しかし太郎の熱意を感じた母が「私も手伝ってあげるから」と後押しし、父もようやく了承しました。
子ヤギには「メイ」と名前がつけられました。
メイは最初、太郎に抱かれても少し警戒した様子でしたが、太郎が優しく撫でて話しかけるたびに少しずつ心を開いていきました。
太郎は毎日、朝から晩までメイに餌を与え、清潔に保つことを心がけ、メイの体調を細かく観察しました。
また、愛情を注ぐだけでなく、獣医に相談しながらメイが健康に育つためのアドバイスも積極的に取り入れました。
季節が移り変わり、春が訪れる頃にはメイの体つきはしっかりとしてきました。
今では太郎が「おいで」と声をかけると、メイは喜んで駆け寄ってくるようになりました。
太郎もすっかりメイに愛着を持ち、メイの顔やしぐさを見るたびに心が癒される日々を送っていました。
ある日、太郎はメイを連れて村の広場に行きました。
村人たちは最初、メイがペットのように振る舞っていることに驚きましたが、太郎がメイをどれだけ大切に育てているかを知り、次第に応援してくれるようになりました。
メイもまた、村の子供たちに囲まれながら優しい眼差しで応えていました。
しかし、楽しい日々の中にも、太郎は次第に別れの準備をしなければならないと感じるようになりました。
メイは少しずつ成長し、自然と広い場所を求め始めたのです。
家畜として飼うヤギとは違い、太郎の家での生活は制限も多く、メイが本来のヤギらしい生活を送れる環境が必要だと痛感しました。
そしてある日、太郎はメイを広い牧場に送り出す決心をしました。
太郎は涙ながらにメイを抱きしめ、「お前が幸せに暮らせる場所で元気に生きるんだぞ」と言いました。
メイは太郎をじっと見つめ、まるでその言葉を理解しているかのように首を傾げました。
その後、太郎は村人たちの協力を得て、メイが新しい場所で自由に過ごせるよう手配しました。
メイを牧場に見送った後、太郎の家は少し静かになりましたが、太郎の心にはメイとの思い出がいつまでも残りました。
季節が巡るたびに太郎は時折メイを見に牧場に足を運びました。
そしてメイは太郎の姿を見つけると、遠くからでも駆け寄ってきてくれるのでした。
太郎はこの出来事を通して、命の大切さや別れの意味について深く考えるようになりました。
メイとの時間は一見短いものでしたが、彼にとってかけがえのない宝物になりました。
そしてメイもまた、太郎に出会ったことが一生の幸福だったに違いありません。
それから数年が経ち、太郎は成長したメイが新しい仲間とともに野原を駆ける姿を見届けると、心の中でそっと感謝の言葉をつぶやきました。
「ありがとう、メイ。また会おうな。」