旅を趣味にしている人は少なくないが、森崎あゆみの旅は少し違っていた。
彼女が興味を持つのは、誰もが訪れる観光地やリゾート地ではなく、世界各地に暮らす先住民族だった。
最初の出会いは、あゆみがまだ大学生だったころに遡る。
人類学を専攻していた彼女は、フィールドワークの一環としてアマゾン熱帯雨林の奥地を訪れた。
現地のガイドと共に、彼女はジャングルの中を何時間も歩き続けた。
道はぬかるんでおり、虫の鳴き声と鳥のさえずりしか聞こえない。
「本当にここに人が住んでいるの?」と彼女はガイドに尋ねた。ジャングルの中に人の存在を感じさせる痕跡はどこにもなかった。
「彼らはこの森と共に生きている。森が彼らの家であり、生活そのものだ」とガイドは答えた。
ついに、彼らの村に到着した。
簡素な家々が木々の間に点在し、子どもたちが裸足で走り回っている。
彼らはあゆみを好奇心いっぱいに見つめた。
あゆみもまた、彼らに強い興味を抱いた。
この村の人々は、外の世界とは全く異なる文化や価値観を持っていた。
彼らの生活は、自然と調和している。
自給自足で食べ物を得て、薬草を使って病気を治す。
彼らの知識は何世代にもわたって受け継がれてきたものだった。
あゆみはこの体験に感動し、それ以降、世界中の先住民族を訪ねる旅に没頭するようになった。
彼女は、ただ観光で訪れるのではなく、彼らの文化に深く触れ、彼らの物語を聞くことに興味を持っていた。
次にあゆみが訪れたのは、オーストラリアのアボリジニだった。
広大な赤い大地が広がる中、彼らは何千年もこの土地で生活をしてきた。
彼女が出会ったエルダー(長老)は、土地に根ざした伝統的な物語を語り始めた。
「私たちは、この大地と共に生きてきた。
私たちの物語は、この石や木、風の中にある。
すべてはつながっているんだ」とエルダーは言った。
あゆみは、この言葉に心を打たれた。
彼女は、どの先住民族も自然との強い絆を持っていることに気づいた。
現代の文明が発展する前から、彼らは地球のリズムに合わせて生活してきたのだ。
彼女が次に足を運んだのは、アメリカのナバホ族だった。
彼らの暮らす砂漠地帯は過酷だったが、その中で彼らは強い誇りを持って生きていた。
ナバホ族の家族と時間を共に過ごし、あゆみは彼らの織物や伝統的な音楽に触れた。
彼らの歌は、自然の力と祖先への敬意を表すものだった。
「私たちの文化は変わらざるものではない。しかし、私たちはその変化を受け入れ、同時に大切なものを守り続けている」と、村の長老は語った。
あゆみは、この言葉に自分自身を重ねた。
自分もまた、旅を通じて変わり続けているが、その中で大切なものを見失わないようにしているのだ、と。
彼女の最後の旅先は、アジアの山岳地帯に住むカレン族だった。
険しい山道を何時間も歩き、ようやく村にたどり着いたあゆみを、カレン族の女性たちは温かく迎え入れた。
彼女たちは、独自の織物技術を代々受け継いでおり、彼女もその一端に触れることができた。
「この布は、私たちの歴史を語っている。模様には、それぞれ意味があり、私たちの祖先の物語が込められている」と女性たちは語った。
あゆみは、この繊細な手仕事に深い感銘を受けた。
カレン族もまた、自分たちの文化や伝統を誇りに思い、それを未来へと伝えていくことを大切にしている。
こうして、あゆみの旅は続いていった。
彼女は、訪れた先々で多くのことを学んだ。
それは、単なる知識ではなく、感覚や感情として彼女の心に刻まれていた。
彼女が出会った先住民族たちは、すべて異なる文化や価値観を持ちながらも、共通していたのは「つながり」だった。
自然とのつながり、祖先とのつながり、そして未来へとつなげるための知恵。
あゆみは、これからも旅を続けるだろう。
先住民族たちのもとを訪ね、彼らの文化に触れ、彼女自身の世界を広げていく。
その旅路の中で、彼女はきっと、自分自身とのつながりも深めていくに違いない。